みなし譲渡/取引相場のない株式の時価/配当還元方式か類似業種比準方式か

所得税判決 

  東京地裁 平成29年8月30日判決 (棄却)控訴

  東京高裁 平成30年7月19日 (全部取消(納税者勝訴))国側上告受理申立

 

みなし譲渡/取引相場のない株式の時価/配当還元方式か類似業種比準方式か

 

1.事案の概要 

 平成19年8月、A社(発行済株式総数920万株)の代表取締役であったXが、X所有の同社株式(譲渡直前の所有株数146万700株(議決権割合15.88%))のうち72万5000株(議決権割合7.88%)をB社(Xの同族関係者ではない)に一株当たり75円(配当還元価額)で譲渡したところ、課税庁より、譲渡時における価額は類似業種比準方式により算定した一株当たり2990円であり本件譲渡は所得税法59条1項第2号の低額譲渡に当たるとして所得税の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分を受けた。X(平成19年12月死亡)の相続人らは異議申し立て及び審査請求(棄却)を経て本件訴えを提起した。

 

2.事実関係

A社の株主構成

本件譲渡直前の株主構成(持株割合)

  X:15.88%、Xの同族関係者:6.91% 合計22.79%

  C社:24.18%、A社経営研究会持株会:24.03%

  従業員持株会:25.16%、その他個人株主3.84%

 (同族株主のいない会社でありX及びXの同族関係者の持株割合が15%以上)→この状態でXに相続が生じた場合、Xの株式は原則評価となる。

  本件譲渡後の株主構成

    X:8.00%、Xの同族関係者6.91% 合計14.91%

    B社:7.88%、C社24.18%、A社経営研究会持株会:24.03%

    従業員持株会:25.16%、その他個人株主3.84%

 (同族会社のいない会社でありX及びXの同族関係者の持株割合が15%未満)→Xに相続が生じた場合、Xの株式は配当還元評価となる。

その他

B社(有限会社)はA社の役員及び従業員が株主となっている会社。株主数10名

平成16年設立、設立直後にC社株式を一定割合取得している。平成20年2月期までは配当なし、それ以降は毎年配当。

株式譲渡に関する事情

  B社はA社株式の購入代金を全額A社の100%子会社であるD社から借り入れた。

 

3.争点

本件株式譲渡が所得税法59条1項2号の低額譲渡に当たるか。具体的には、

 ① 所得税基本通達59-6の(1)の条件下における評価通達188の議決権割合の判定方法

 ② 本件株式譲渡における譲渡代金額をもって時価といえるか。

 

4.争点①について

被告の主張

所得税基本通達59-6の(1)は、株式を譲渡した個人の当該譲渡直前の議決権割合により、評価通達188の定めに基づき、当該株式が「同族株主以外の株式等が取得した株式」に当たるか否かを判断すべきことを定めたもの。これは、譲渡所得課税制度の趣旨が、譲渡人に帰属する資産の保有期間中の増加益を所得として課税する点にあることからすれば、その増加益は株式の譲渡人の譲渡直前の議決権割合により判定することが最も合理的といえるため。

 

原告の主張

所得税基本通達59-6の(1)は、評価通達188の(1)定める「同族株主」に該当するかどうかは、株式を譲渡した個人の当該譲渡直前の議決権に数により判定すると規定している。他方で評価通達188の(2)~(4)については同様の条件が規定されていない。そうすると、評価通達188の(3)のうち、「同族株主のいない会社」であるかどうかの判定は、株式譲渡直前の議決権の数により行うことになるとしても、「課税時期において株主の1人及びその同族関係者の有する議決権の合計数が、その会社の議決権総数の15%未満である場合におけるその株主の取得した株式」に該当するかどうかの判定(株主区分の判定)は、その文言どおり、株式の取得者の取得後の議決権割合により行うのが相当である。評価通達の文言に忠実な解釈は、実務上、通達も法律に準じ広く一般に周知され、納税者の指針となっていることに鑑みれば、租税法律主義の下で課税に関する予測可能性を保障するという要請に適う。… 取引相場のない株式の売買を行う場合には、譲受人が取得株式に期待するものが何かという譲受人側の事情が、取引価額の決定要素となり、譲受人が少数株主となる場合には配当を期待して売買価額を決定することになるため、配当還元方式により評価することが合理的である。

 

5.争点②について

原告の主張

 B社はA社の持株会を補完するものとしてA社の役員や従業員の福利厚生を目的に設立したものでXとは独立した第三者であり、本件株式譲渡は、利害背反する第三者間で行われたものである。少数株主となるに過ぎないB社にとって、本件株式の実質的経済価値は配当への期待のみであり、配当還元方式により評価された本件譲渡は「時価」によりなされたものである。

被告の主張

A社の株主であるC社やA社の役員らはXの実行支配下にあったことから、A社のみならずA社の役員が株主であるB社においてもXは極めて強い権限を有していた。これらの会社では株主譲渡の前後を通じて株主総会や取締役会が開催されたことはないなど、Xによる実行支配体制が確立していた。本件株式譲渡の譲渡価額を決定するにあたり、XやB社において合理的な検討はされておらず、本件株式譲渡はXの一族が有するA社の議決権割合を15%未満にして相続税負担を軽減させることを目的に行われたものである。本件株式譲渡における譲渡価額は、時価であるとは言えない。

 

6.裁判所の判断

(i)東京地裁 請求棄却

争点①について

 所得税基本通達59-6は、所得税法59条1項の適用に当たって、取引相場のない株式で売買実例のある株式等に該当しないものの「その時における価額」とは、原則として、一定条件の下に、評価通達の178から189-7までの例により算定した価額とする旨を定めており、これらの通達はいずれも公開されている。

 所得税基本通達59-6がこのような取り扱いを定めている趣旨は、取引相場のない株式は、その客観的交換価値を的確に把握することが容易ではないため、・・・取扱いを(相続評価等に使われる)評価通達の例に原則として統一することで、回帰的かつ大量に発生する課税事務の迅速な処理に資するとともに、公開された画一的な評価によることで、納税者間の公平を期し、また納税者の申告納税の便宜を図るという点にある。

 このような通達の趣旨に鑑みれば、所得税基本通達59-6が定める条件の下に適用される評価通達に定められた評価方法が、取引相場のない株式の譲渡に係る譲渡時の客観的交換価値を算定する方法として一般的な合理性を有するものであれば、その評価方法によっては・・・適正に算定することができない特別な事情がある場合でない限り、その評価方法によって算定された価額は所得税法59条1項にいう「その時における価額」として適正なものである。

(中略)

所得税基本通達59-6(1)の趣旨は、評価通達を譲渡所得の収入金額の計算の趣旨に即して用いることを可能にするためであると解される。すなわち、・・・譲渡所得に対する課税は、資産の値上がりによりその資産の所有者に帰属する増加益(キャピタル・ゲイン)を所得として、その資産が所有者の支配を離れて他に移転するのを機会に、これを清算してその譲渡人である元の所有者に課税する趣旨のものと解されるのであって(最高裁47年12月26日、最高裁50年5月27日)そのような課税の趣旨からすれば、譲渡所得の基礎となる当該資産の価額は、当該資産を譲渡した後の譲受人にとっての価値ではなく、その譲渡直前において元の所有者が所有している状態における当該所有者(譲渡人)にとっての価値により評価するのが相当であるから、評価通達188(1)~(4)の定めを取引相場のない株式の譲渡に係る譲渡所得の収入金額の計算上当該株式のその譲渡のときにおける価額の算定に適用する場合には、各定め中「(株主の)取得した株式」とあるのを「(株主の)有していた株式で譲渡に供されたもの」と読み替えるのが相当であり、また、各定め中のそれぞれの議決権の数も当該株式の譲渡直前の議決権の数によることが相当であると解される。

 所得税基本通達59-6の(1)は、上記の趣旨を「同族株主」の判定について確認的に規定したものであり、上記の読替え等をした上で評価通達188の(1)~(4)の定めを適用すべきであることを当然の前提とするものと解されるからこの規定もまた一般的な合理性を有すると認められる。

評価通達188の(1)~(4)の定めを取引相場のない株式の譲渡に係る譲渡所得の収入金額の計算上当該株式のその譲渡の時における価額の算定に適用する場合には、原告らのいう会社区分の判定においても、株主区分の判定においても、譲渡直前の譲渡人の議決権割合によるのが相当である。(下線部筆者)

 

(ii) 東京高裁 全部取消

(ア)所得税基本通達及び評価基本通達に定める評価方法の合理性について

 評価通達188は、株主の会社支配力を測る基準として、株主及びその同族関係者の有する議決権の合計数がその会社の議決権総数に占める割合に注目し、これを基として配当還元方式が適用される「同族株主以外の株主等が取得した株式」の範囲を具体的に定めている。すなわち、評価通達188は、・・・・同族株主の有無によって評価会社を2つに区分した上で(会社区分)、同族株主のいる会社である場合には同(1)又は(2)の株式に該当するかどうかにより、同族株主のいない会社である場合には同(3)又は(4)の株主に該当するかどうかによって、それぞれ判定することとしている(株主区分の判定)。評価通達188の規定がこのような構造となっているのは、同族株主の有無や、株式の取得者の取得後の議決権割合等により、会社支配力の有無が異なり、当該株式の取得目的及び通常取引される場合の価額が異なり得ることから、同族株主の有無によって大きく会社を2つに区分した上で、各会社区分について株主の会社支配権を測る基準となる議決権割合を定め、これに基づき配当還元方式が適用される・・・か否かの判定を行うこととしたものと解される。

以上の諸点に鑑みれば、評価通達178から188-2までに定めるこれらの評価方法は、取引相場のない株式につき株式取引の実情等を踏まえたものとして一般的な合理性を有するものと認められる。

 所得税基本通達59-6・・・の合理性について検討すると、・・・評価通達が本来的には贈与税の課税価格の計算の基礎となる財産の評価に関する基本的な取扱いを定めたものであって、譲渡所得の収入金額の計算とは適用場面が異なるところ、譲渡所得に対する課税は、資産の値上がりによりその資産の所有者の支配を離れて他に移転するのを機会に、これを清算して課税するという趣旨を踏まえ、評価通達を譲渡所得の金額の計算の趣旨に即して用いることを可能にするためであると解され、このような考え方自体は、合理性を有するものと認められる。

(イ)争点①について

所得税基本通達59-6の(1)は、・・・評価通達188の(1)・・・の文理解釈だけでは、30%以上等である場合が、株式譲渡直前の議決権について述べているのか、譲渡後の議決権について述べているのかは必ずしも明らかでないため、譲渡所得に対する課税が、資産の値上がりによりその資産の所有者に帰属する増加益を所得として、その資産が所有者の支配を離れて他に移転するのを機会に、これを清算して課税するという趣旨から、30%以上等という基準は、株式を譲渡した個人の当該譲渡直前の議決権割合により判定すべきことを定めたということができ、このこと自体の合理性は認めることができる。

 ところが、被控訴人(国)は、更に進んで、譲渡所得に対する課税の上記の趣旨から、評価通達188の(2)から(4)までに係る株主区分の判定についても、譲渡人の株式譲渡直前の議決権割合により判定する旨を主張している。・・・被控訴人主張のように理解するためには、評価通達188の(2)及び(4)の「株式取得後」との文言を「譲渡した株式」と、同(2)から(4)までの「取得した株式」との文言を「譲渡した株式」と、それぞれ読み替えることを要し、所得税基本通達59-6の(1)はそのような読み替えを定めたものと理解することが必要となる。(所得税基本通達59-6が定められた直後の平成13年当時、上記主張に沿う解説が示されているが、その後、上記のような読み替えを明確に示した解説等は、見当たらない。)

 租税法規の解釈は原則として文理解釈によるべきであり、みだりに拡張解釈や類推解釈を行うことは許されないと解されるところ、所得税基本通達及び評価通達は租税法規そのものではないものの、課税庁による租税法規の解釈適用の統一に極めて重要な役割を果たしており、一般にも公開されていて納税者が具体的な取引等について検討する際の指針となっていることからすれば、課税に関する納税者の信頼及び予見可能性を確保する見地から、上記各通達の意味内容についてもその文理に忠実に解釈するのが相当であり、通達の文言を殊更に読み替えて異なる内容のものとして適用することは許されないというべきである。・・・所得税基本通達59-6の(1)が、評価通達188の(1)に定める「同族株主」に該当するかどうかについて株式を譲渡した個人の当該譲渡直前の議決権の数により判定する旨を定める一方で、同(2)から(4)までについて何ら触れていないことからすれば、同(3)の「同族株主のいない会社」に当たるかどうかの判定(会社区分の判定)については、それが同(1)の「同族会社のいる会社」の対概念として定められていることに照らし、所得税基本通達59-6の(1)により株式直前の議決権の数により行われるものと解されるとしても、「課税時期において株主の1人及びその同族関係者の有する議決権の合計数が、その会社の総議決権数の15%未満である場合におけるその株主の取得した株式」に該当するかどうかの判定(株主区分の判定)については、その文言どおり、株式の取得者の取得後の議決権割合により判定されるものと解するのが相当である。

その(被控訴人の主張の)ような解釈をするためには、上記のような「読み替え」が必要となるが、所得税基本通達59-6の(1)の文言は、評価通達188の(1)の「同族株主」について述べているのであるから、評価通達188の(2)から(4)までの「同族株主」以外の部分までが上記のように読み替えられて適用される旨を読み取ることは、一般の納税者にとっては困難である。

 譲渡所得に対する課税の趣旨から、上記「読み替え」を導き出すこと自体、・・・無理があるといわなければならない。・・・所得税法59条1項にいう「その時における価額」は、譲渡の時における資産の客観的交換価値で、不特定多数の独立当事者間の自由な取引において通常成立すると認められる価額を意味するのであり、・・・その(譲渡人と譲受人)の自由な取引において成立すると認められる価額は、譲渡人が譲渡前に有していた支配関係によって決定されるのか、譲渡後に譲受人が取得することになった支配関係のどちらかで決定されるのかは一概に決定することはできず、双方の会社支配の程度によって結論を異にする事項であるというべきである。被控訴人の主張する譲渡所得課税の趣旨(所有者に帰属していた増加益を清算して課税する。)といっても、上記のように成立した価額を基準に、所有者の有していた増加益を判断して課税することになるのであるから、上記譲渡所得課税の趣旨に反するということまではできない。・・・株式取得後の議決権割合で判定する旨を定めていることが文理上明らかな評価通達188の(2)から(4)までについてまで、明文の定めもなく、上記譲渡所得課税の趣旨によって読み替えることは、所得税基本通達59-6の(1)があっても無理があるといわなければならない。(なお・・・(株式の)分割譲渡について殊更に租税回避の意図を見出してこれを実質的に否認するような解釈をとることは、私的自治の観点からも疑問があるものといわざるを得ない。)

 そうすると、評価通達188の(2)から(4)までについては、・・・これを読み替える明文の規定がない場合には、「同族株主のいない会社」の部分を除き、そのまま譲渡所得税も適用するのが相当である。

・・・仮に、被控訴人が主張するような解釈をとろうとするのであれば、・・・その旨を通達上明確にしておくべきであって、通達等の改正等を経ることなく解釈によりその実質的内容を変更することは、通達の定めを信頼して取引等について判断をした納税者に不測の不利益を与えるものであり、相当でないというべきである。

 なお、評価通達188の(3)について以上のように解すると、会社区分と株主区分の各判定の基準となる時期が異なることとなり、一文で定められている株式の要件に関してことなる判断基準が混在することになるが、会社区分の判定と株主区分の判定は論理的に関連するものではなく、前者について株式譲渡直前の議決権割合によって判定するからといって、後者についても当然に同じ基準によらなければならないという必然性があるとはいえない。

(ウ)本件株式の評価について

譲渡直前において、議決権総数30%以上の議決権を有する株主及びその同族関係者は存在しなかったから、同社は「同族株主のいない会社」に当たる。そして、同(3)のとおり、B社の本件株式取得後の議決権割合は7.88%であり、B社には同族関係者がおらず、その議決権割合はA社の議決権総数の15%未満にとどまる、従って、本件株式は、評価通達188の(3)の株式に該当するから、・・・配当還元方式によって評価すべきこととなる。

 

7.検討

 私を含め多くの税理士は、取引相場のない株式の譲渡に所得税法第59条が適用されるかどうか判断する際、所得税基本通達(以下「所基通」という)59-6及び財産評価基本通達(以下「評通」という)188の理解については、国が主張し地裁判決が認めた解釈(即ち、評通188全体で「課税時期」とあるのを「譲渡直前」と「取得した」を「譲渡した」と読み替える。)をとってきた。しかし、改めて通達の文言を見てみると、高裁判決が指摘するように、そうした読み替えが明示されているわけではない。単に、所基通59-6(1)に「財産評価基本通達188の(1)に定める「同族株主」に該当するかどうかは、株式を譲渡又は贈与した個人の当該譲渡又は贈与直前の議決権の数により判定すること。」とされているだけである。譲渡所得税の趣旨がのべられるときに常に引用される最高裁の判示「譲渡所得に対する課税は、資産の値上がりによりその資産の所有者に帰属する増加益(キャピタル・ゲイン)を所得として、その資産が所有者の支配を離れて他に移転するのを機会に、これを清算してその譲渡人である元の所有者に課税する趣旨のもの」をお題目のように聞かされてきた私は、「所得税基本通達逐条解説」(大蔵財務協会)による「株主区分の判定は、譲渡(贈与)前の保有株式数により判定すること」という通達の「解釈」を何の疑いもなく受け入れてしまっていた。しかし、このような解説抜きに、所通59-6(1)及び評価通達188の文言だけから、国が主張するような解釈を疑いなく導くことはできない。法令の具体的適用場面において指針となるべき通達が、その意味内容を明らかにするためにさらに解釈しなければならないのであれば意味がない。課税処分を全部取消した高裁判決は、「通達の重要性及び機能に照らし、その旨(国が主張するような取扱い)を通達上明確にしておくべきであって通達の改正等を経ることなく解釈によりその実質的内容を変更することは、通達の定めを信頼して取引等について判断をした納税者に不測の不利益を与えるものであり、相当でないというべきである。」と、明瞭性を欠く通達をそのまま放置してきた課税庁を強く批判している。

 高裁判決は、納税者が主張する解釈を全面的に支持しているわけでもないようである。判決文中の(納税者の主張が)「上記譲渡所得課税の趣旨に反するということまではできない」とか(課税庁が主張するような読み替えをすることは)「一般の納税者にとっては困難である。」(傍点筆者)という表現からそのことが読み取れる。

 課税処分を取り消した高裁判決の結論は妥当であると考えるが、高裁の行った「文理解釈」については今一つ腑に落ちない。所基通59-6(1)の下での評通188の(2)~(4)について高裁判決は、「同族株主のいない会社」の部分を除き、そのまま譲渡所得課税にも適用するのが相当である」と述べているが、少なくとも「取得した」という文言を「譲渡した」文言に読み替える必要があるように思う。というのは、この読み替えを認めないと、少数株主が支配株主に譲渡した場合でも配当還元評価できないという不合理な結果となるからである。従って高裁判決は、評通188の(3)を「(譲渡直前において)同族株主のいない会社の株主のうち、課税時期(譲渡直後)において株主の1人及びその同族関係者の有する議決権の合計数が、その会社の議決権総数の15%未満である場合におけるその株の(譲渡)した株式」(は配当還元価額で評価しても良い)と読むべきだと言っていると思われるが、ここで「取得した」を「譲渡した」と読み替えるのであればその前にある「課税時期」を譲渡直後とする論拠が弱くなる。相続税贈与税での「課税時期」は取得後を指すのだから、明文の読替え規定がない場合には所得税法59条の適用の際も取得後(すなわち譲渡後)を指すということなのだろうが、もし「取得した」を「譲渡した」と読むのであれば少し苦しい。

 高裁判決後、国側は上告受理申し立てを行った。最高裁がどのような判断を下すか予想がつかないが、この事案を機会に、課税庁には所基通59-6を明瞭な形に改定して欲しいと思う。

 最後に、Xらにとって所得税法59条による課税処分は想定範囲内であったのかもしれない。というのも、取引相場のない株式の譲渡所得課税は税率20%の分離課税であるため、72万5000株×(2990円-75円)=21億1337万円余の譲渡所得に対し、税額は4億2267万円で済む。しかもこの金額は相続税の債務控除の対象となる。本件譲渡によってXの所有する残りの株式73万5700株の評価は配当還元価額となる。その金額が譲渡時と同じならば総額1億955万円である。一方本件株式譲渡を行わずに相続が開始した場合には146万700株全部を原則評価としなければならない。その金額が譲渡時と同じと仮定すれば、総額43億6749万円となる。相続税の税率が50%ならば、相続税額に21憶円以上もの差が生じることとなる。この差を見ると、所得税の課税処分のリスクがあっても、この節税スキームを実行したことは頷ける。

 

法令・通達

所得税法 第59条 (贈与等の場合の譲渡所得等の特例)

 次に掲げる事由により居住者の有する山林(事業所得の基因となるものを除く。) 又は譲渡所得の基因となる資産の移転があつた場合には、その者の山林所得の金額、譲渡所得の金額又は雑所得の金額の計算については、その事由が生じた時に、その時における価額に相当する金額により、これらの資産の譲渡があつたものとみなす。

 ◆1 贈与(法人に対するものに限る。) 又は相続(限定承認に係るものに限る。) 若しくは遺贈(法人に対するもの及び個人に対する包括遺贈のうち限定承認に係るものに限る。)

 ◆2 著しく低い価額の対価として政令で定める額による譲渡(法人に対するものに限る。)

 第2項 省略

 

所得税法施行令 第169条 (時価による譲渡とみなす低額譲渡の範囲) 

 法第59条第1項第2号(贈与等の場合の譲渡所得等の特例) に規定する政令で定める額は、同項に規定する山林又は譲渡所得の基因となる資産の譲渡の時における価額の2分の1に満たない金額とする。

 

所得税基本通達 23~35共-9(株式等を取得する権利の価額) 〈抜粋〉

 令第84条第2項第1号から第4号までに掲げる権利の行使の日又は同項第5号に掲げる権利に基づく払込み又は給付の期日( )における同項本文の株式の価額は、次に掲げる場合に応じ、それぞれ次による。

 (1)これらの権利の行使により取得する株式が金融商品取引所に上場されている場合

      略

 (2)これらの権利の行使により取得する株式に係る旧株が金融商品取引所に上場されている場合において、当該株式が上場されていないとき

      略

 (3)(1)の株式及び(2)の旧株が金融商品取引所に上場されていない場合において、当該株式又は当該旧株につき気配相場の価格があるとき

      略

 (4)(1)から(3)までに掲げる場合以外の場合

 次に掲げる区分に応じ、それぞれ次に定める価額とする。

   イ 売買実例のあるもの

    最近において売買の行われたもののうち適正と認められる価額

   ロ 公開途上にある株式で、当該株式の上場又は登録に際して株式の公募又は売出し(以下この項において「公募等」という。)が行われるもの(イに該当するものを除く。)

      略 

 ハ 売買実例のないものでその株式の発行法人と事業の種類、規模、収益の状況等が類似する他の法人の株式の価額があるもの

      当該価額に比準して推定した価額 

   ニ イからハまでに該当しないもの

 権利行使日等又は権利行使日等に最も近い日におけるその株式の発行法人の1株又は1口当たりの純資産価額等を参酌して通常取引されると認められる価額 

 

所得税基本通達 59-6(株式等を贈与等した場合の「その時における価額」) 

 法第59条第1項の規定の適用に当たって、譲渡所得の基因となる資産が株式(株主又は投資主となる権利、株式の割当てを受ける権利、新株予約権及び新株予約権の割当てを受ける権利を含む。以下この項において同じ。)である場合の同項に規定する「その時における価額」とは、23~35共-9に準じて算定した価額による。この場合、23~35共-9の(4)ニに定める「1株又は1口当たりの純資産価額等を参酌して通常取引されると認められる価額」とは、原則として、次によることを条件に、昭和39年4月25日付直資56・直審(資)17「財産評価基本通達」(法令解釈通達)の178から189-7まで《取引相場のない株式の評価》の例により算定した価額とする。 (平12課資3-8、課所4-29追加、平14課資3-11、平16課資3-3、平18課資3-12、課個2-20、課審6-12改正)

 (1) 財産評価基本通達188の(1)に定める「同族株主」に該当するかどうかは、株式を譲渡又は贈与した個人の当該譲渡又は贈与直前の議決権の数により判定すること。

 (2) 当該株式の価額につき財産評価基本通達 179の例により算定する場合(同通達189-3の(1)において同通達179に準じて算定する場合を含む。)において、株式を譲渡又は贈与した個人が当該株式の発行会社にとって同通達188の(2)に定める「中心的な同族株主」に該当するときは、当該発行会社は常に同通達178に定める「小会社」に該当するものとしてその例によること。

 (3) 当該株式の発行会社が土地(土地の上に存する権利を含む。)又は証券取引所に上場されている有価証券を有しているときは、財産評価基本通達185の本文に定める「1株当たりの純資産価額(相続税評価額によって計算した金額)」の計算に当たり、これらの資産については、当該譲渡又は贈与の時における価額によること。

 (4) 財産評価基本通達185の本文に定める「1株当たりの純資産価額(相続税評価額によって計算した金額)」の計算に当たり、同通達186-2により計算した評価差額に対する法人税額等に相当する金額は控除しないこと。

 

財産評価基本通達 188(同族株主以外の株主等が取得した株式)

 178≪取引相場のない株式の評価上の区分≫の「同族株主以外の株主等が取得した株式」は、次のいずれかに該当する株式をいい、その株式の価額は、次項の定めによる。(昭47直資3-16・昭53直評5外・昭58直評5外・平15課評2-15外改正)

 (1)同族株主のいる会社の株式のうち、同族株主以外の株主の取得した株式

 この場合における「同族株主」とは、課税時期における評価会社の株主のうち、株主の1人及びその同族関係者(法人税法施行令第4条((同族関係者の範囲))に規定する特殊の関係のある個人又は法人をいう。以下同じ。)の有する議決権の合計数がその会社の議決権総数の30%以上(その評価会社の株主のうち、株主の1人及びその同族関係者の有する議決権の合計数が最も多いグループの有する議決権の合計数が、その会社の議決権総数の50%超である会社にあっては、50%超)である場合におけるその株主及びその同族関係者をいう。

 (2)中心的な同族株主のいる会社の株主のうち、中心的な同族株主以外の同族株主で、その者の株式取得後の議決権の数がその会社の議決権総数の5%未満であるもの(課税時期において評価会社の役員(社長、理事長並びに法人税法施行令第71条第1項第1号、第2号及び第4号に掲げる者をいう。以下この項において同じ。)である者及び課税時期の翌日から法定申告期限までの間に役員となる者を除く。)の取得した株式

 この場合における「中心的な同族株主」とは、課税時期において同族株主の1人並びにその株主の配偶者、直系血族、兄弟姉妹及び1親等の姻族(これらの者の同族関係者である会社のうち、これらの者が有する議決権の合計数がその会社の議決権総数の25%以上である会社を含む。)の有する議決権の合計数がその会社の議決権総数の25%以上である場合におけるその株主をいう。 

 (3)同族株主のいない会社の株主のうち、課税時期において株主の1人及びその同族関係者の有する議決権の合計数が、その会社の議決権総数の15%未満である場合におけるその株主の取得した株式

 (4)中心的な株主がおり、かつ、同族株主のいない会社の株主のうち、課税時期において株主の1人及びその同族関係者の有する議決権の合計数がその会社の議決権総数の15%以上である場合におけるその株主で、その者の株式取得後の議決権の数がその会社の議決権総数の5%未満であるもの((2)の役員である者及び役員となる者を除く)の取得した株式