相続財産の範囲/和解契約に基づく⽀払請求権

                             区分:相続税(裁決)

               平成31年4月19日 東裁  TAINS F0-3-683

1.はじめに

 相続税の課税対象となる財産は、金銭に見積ることができる経済的価値のあるすべてのもの、法律上の根拠を有しないものであっても経済的価値が認められているものとされている(相続税法基本通達11の2-1)。相続税申告の際、大半は容易に経済的価値があるかどうか、言い換えれば申告すべき財産に含めるかどうか、またその評価額をどうすべきか財産評価基本通達(以下「評価通達」という)に従って処理すればよいのであるが、中には事実関係をよく確認しなければならないものもある。例えば、相続開始時点で条件未成就の停止条件付き債権については、条件成就の可能性を検討し、課税の対象とすべき財産なのか、またその場合評価額はいくらなのか容易には決められない。

今回取り上げる事案もそうした財産に関する争いである。この事案、相続税単独で見た場合には当然の結論が出されたようにみえるが、所得税との二重課税の問題が含まれており、筆者はまさにその点に興味をそそられた。

 

2.事案の概要

和解契約で決められた和解金総額を毎年一定の方法で計算される金額ずつ受け取っていた被相続人について開始した相続に係る相続税の計算にあたって、所轄税務署(原処分庁)が相続開始時点における和解金請求権(和解金総額からすでに支払われた和解金を控除した残額で評価)を課税価格に算入すべきとして更正処分を行ったところ、請求人ら(被相続人の子2人)が、当該請求権は条件未成就の停止条件付権利であるから相続税の課税対象とはならないなどとして、処分全部の取消しを求めた。

 

3.基礎事実

平成12年、請求人の父(本件被相続人)を含む6者(本件被相続人ら)はA社との間でA社が産業廃棄物最終処分場の事業を開始するために取得を企図した本件土地及び××の土地に係る紛争に関し和解契約(本件和解契約)を締結した。

 

1)本件和解契約書の内容

 和解金の総額 10億円

本件被相続人らがA社の妨害をしないなどの一定の履行を前提に、A社又はA社の指定する者が(本件土地所有者の)破産管財人と本件土地の売買契約を締結し、所有権移転登記手続が完了することを条件として、A社はB社に対し次の和解金を支払う。

第1号 本件土地の所有権移転登記手続が完了確認した日から3日以内に○○円

第2号 本件土地の上にA社が建設する産業廃棄物最終処分場の竣工の日から10日以内に△△円

第3号 A社が、本件処分場の営業を開始した年から、毎年、同社の決算書に記載された税引後の利益の■■に相当する金額又は5千万円のいずれか少ない方の金額。ただし、本号に基づく支払は合計5億円まで。

〈和解契約3号の内容〉

 本件和解金の支払先は名義上B社と定められているが、受領すべき権利者は本件被相続人である。△△は平成8年に##の代表取締役に就任した。[1]

 

2)本件和解契約の履行状況等

(i) 相続開始前の履行状況

第1号、第2号の履行…第1号、第2号の条件が満たされ、A社は平成13年に第1号の金額を、平成16年に第2号の金額を支払った

第3号の履行…H17.12.27 H19.1.4 H20.1.7 H21.1.5 各5000万円の支払い[2]

H22.1.4 ○○円 H23.1.4 ××円 H24.1.4 □□円

 

(ii)被相続人の相続と相続開始後の第3号和解金支払いの履行状況

H25年(と推測される)相続開始。法定相続人は被相続人の子であるX1、X2の2名

H26.1.13 遺産分割協議。和解契約における被相続人の地位及び権利義務の全てをX1が相続

H27.2.27 H26年9月期の税引後利益を基礎として△△円の支払い[3]

H28.1.4  H27年9月期の税引後利益を基礎として◇◇円の支払い

 

審査請求に至る経緯

H26年[4] 相続税の期限内申告をX1,X2共同で行った

H28.4.5  相続税の調査を受けて修正申告(本件権利部分を除く)

H29.6.28 上記修正申告に伴う過少申告加算税の賦課決定処分

H29.6.28 本件権利が申告漏れであるとして相続税の更正処分と過少申告加算税の賦課決定処分

H29.9.20 再調査請求

H30.1.26 棄却

H30.2.27 審査請求

 

3) X1の所得税の申告状況等

 X1は、各年の支払和解金を支払いを受けた年分の一時所得の総収入金額に算入して期限内申告した(平成27年分、28年分)[5]

 相続税の更正処分がされたことに伴い、上記年分の所得税の更正の請求。(H29.7.6)

 更正すべき理由がない旨の通知処分(H29.10.31)

〈通知処分の内容〉

4.争点

争点1 本件権利は、相続税の課税対象となる財産を構成し、相続税の対象となるか。対象となる場合、その評価額はいくらか。

争点2 仮に、本件権利が相続税の課税対象となる財産を構成する場合において、本件権利が本件相続税の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、請求人らに通則法第65条第4項所定の「正当な理由」があると認められるか否か。

 

.双方の主張

1) 争点1について

i)原処分庁の主張

 相続税法に規定する「財産」とは法律上の権利の有無にかかわらず、金銭に見積もることのできる経済的価値のある被相続人に係るすべての財産をいう。物権、債権、債務のような現実の権利義務に限らず、財産上の地位も含まれると解される。

 被相続人はA社に対し、本件相続開始時点で本件権利を有していたといえる。

 和解金の実質的な受取人は本件被相続人であり、実際に本件相続開始日後、X1が本件和解金の一部を受領していたことからすれば、本件相続開始日において、金銭に見積もることのできる経済的価値のある本件被相続人に係る財産であると認められる。

 本件権利の評価額を評価通達204に基づき算出すると、本件和解金残額の元本である◎◎円となる。

 

ii)請求人らの主張

停止条件付権利は、民法において条件の成就によって、初めてその効力を生ずる旨規定されていることから、条件が未成就の間は権利として存在しない。未成就の停止条件付債権は、その価額が「不特定多数の当事者間における自由な取引によって通常成立するもの」と考えることは困難である。「時価」が観念できず、評価することができない。たとえそれが相続財産であっても、その評価額は零円である。

本件和解契約は、被相続人らの妨害行為等を解除条件として支払い条件が定められている。第8項3号に定められた権利の性質、内容については(中略)、含意の背景を理解する必要がある(後略)。第8項第3号は、単なる期限を定めたものではなく、A社が決算期末において税引き後利益を計上することを停止条件とするものである。実際に平成24年9月期、25年9月期は大きな赤字になるなど収益に大きな変動がみられ、本件相続開始日の前後では、本件和解契約に基づく和解金の支払いは行われていない。

 

2)争点2について

i)請求人らの主張

X1の所得税の納税地の所轄税務署長はX1に対する本件各通知処分において、本件和解金を受け取る権利及び本件権利に基づく金員の受領は、相続の時点では権利として「特定されているものではない」と認定し、その後に「受領する権利が確定」した時点において所得税の課税対象となると判断しているのであって、請求人らが主張するところと同様の見解を示している。他の税務署長が採用する見解と同様の見解にしたがって税務申告をした者については、結果として所管税務署長の見解と異なった場合であっても、正当な理由があると認められる場合に該当すると判断すべきである。

 

ii)原処分庁の主張

本件各通知処分は、いずれも平成29年10月31日付でされたものであり、本件相続税申告書の提出後にされたものであるから、請求人らの本件相続税の各申告における本件権利の判断に何ら影響を与えるものではない。

そうすると、本件権利が本件相続税の納付すべき金額の計算の基礎とされていなかったことは請求人らの判断に基づくものであり、税法に対する誤解にすぎないと認められるため、通則法第65条第4項が規定する「正当な理由があると認められる場合」に該当しない。

 

6.審判所の判断

争点1について審判所は、処分庁主張のとおり、本件権利が相続税の対象となるとしつつ、その評価額については一定の方法により相続開始時点の現在価値に割り戻した金額とすべきとし、課税処分の一部を取り消した。

1)認定事実

イ)A社は平成24年1月ごろ○○したため××から△△を受けた。(操業停止処分などなんらかの処分と推測される。)そのため、A社は平成24年9月期、平成25年9月期において当期純利益に損失が生じたことから、和解金を支払わなかった。

ロ)A社は平成25年9月期において、本件和解金残高を長期未払金として貸借対照表固定負債に計上し、和解契約書第8項第3号に定める支払額が算定される都度、長期未払金から未払金に振り替える経理処理を行っていた。[6]

ハ)本件和解金に関しての利息の定めはなく、A社は本件被相続人に対して利息を支払っていないことから本件和解金については無利息のものであった。

 

2)本件権利に関する本件和解契約の内容について

和解契約第8項第3号はA社の各事業年度の税引後利益の■■相当額を年5千万円を上限に総額5億円に達するまで支払うこととしている。

平成24年9月期、平成25年9月期に税引後当期純利益に損失が生じ本件和解金が支払われなかったものの、本件相続開始日までに本件和解金××円が支払われ、相続開始時点においてA社の事業経営が破綻している事情も認められず、その後、本件相続により本件権利を承継したX1に対して各年に継続して本件和解金が支払われている状況を併せ考慮すれば、本件相続開始日において、A社が将来税引後利益を計上出来なくなる可能性は低かったものと推認される。

さらに、本件相続によって本件権利を承継したX1が、自身の経営法人の事業である本件処分場の操業を妨害することは現実的に考え難いこと[7]、また、他の契約当事者が本件被相続人の死亡後もなお、本件処分場の操業を妨害することの合理的理由もないことを前提とすれば、将来にわたりその解除条件が成就する可能性は僅少であったものと認められる。

相続税法上、相続財産に含まれるものの範囲は、金銭に見積もることができる経済的価値のある全てのものをいい、明確な権利とはいえない財産法上の法的地位なども含まれ、期限未到来の始期付権利や条件未成就の停止条件付権利も含まれると解される。

「相続開始日現在において、和解金の残額を請求できる権利が存在しており」、相続開始前後のA社の利益の計上状況やX1に対する和解金の支払い実績から「相続開始日以降に本件和解金を請求できなくなる状況もなかったといえるから、本件権利には、金銭に見積もることができる経済的価値があったものと認められる。」

 

3)本件権利の評価法について

審判所は、「本件権利は、相続開始後のA社の各事業年度の税引後利益に応じて和解金残高の支払いを受けられる債権であり、和解金の支払いに関しては無利息であったことなどから、本件権利は無利息の金銭債権に類似するもの」と判断し、その評価は、相続開始後に期待される各支払金額相当額に通常の利率を基に算出した複利現価率を乗ずる方法で行うべきであるとした。さらに、毎年の支払金額がA社の各事業年度の税引後利益金額から算出されることから、営業権の相続税評価に用いる平均利益金額等を定めた評価通達166の考え方を準用して、過去3年間のA社の本件和解金の支払額の平均値(特殊要因により本件和解金が支払われなかった事業年度は除く)を指標として採用することが相当とした。

和解金残高で評価すべきとする原処分庁の主張に対しては、「本件権利のような無利息の金銭債権は、相続開始日からそれぞれ支払期日まで個々に支払われる支払金ごとに、本件相続開始日から支払期日まで、各別に中間利息を控除する方法によって算定するのが合理的」と退けた。

 

4)争点2について

審判所は、請求人らの相続税の申告が本件通知処分の前であったかどうかは問題にせず、次の様に述べて請求人らの主張を退けた。

「T税務署長が行った(所得税の更正の請求に対する)本件各通知処分に係る処分理由の趣旨は、本件権利につき相続税の課税対象となることを前提としたものであり、かつ、所得税等の課税については、本件和解契約書第8項第3号に掲げる日に支払うべき金額が確定したことによって本件各年分に支払われた本件和解金残額の一部について、本件各年分の所得税等の課税対象となる旨を記載しているものであって、請求人らの主張は、単に本件各通知処分理由に提示された内容を誤解したにすぎず、本件各通知処分理由が請求人らが主張するところの請求人らと同様の見解を示したものとは認められない。(過少申告となったことについて)正当な理由があるとは認められない。」

 

7.検討

 停止条件付債権は、その条件が成就するまで債権者はそれを実際に行使することはできないが、それが一身専属上のものなどの特別なものでなければ、相続によって相続人に引き継がれる。相続税法基本通達11の2-1にあるように、相続税の課税対象となる財産は「金銭に見積ることができる経済的価値のあるすべてのもの。(中略)法律上の根拠を有しないものであっても経済的価値が認められているもの、例えば、営業権のようなもの」とされている。争点1に関する請求人らの主張が認められるためには、本件債権が金銭に見積もることができないことを立証する必要があったが、A社が相続開始前後を通じて(特別な事情のあった2事業年度を除き)継続的に利益を上げていたことから、それは難しかった。審判所が認定する事実関係を前提とする限り、争う余地は本件権利の評価に関する部分だけであったといえる。

 原処分庁は本件権利の評価額を相続開始時点における和解金残額そのものと主張した[8]が、審判所は本件権利を分割で返済を受ける無利息の貸付に類似するものとして、基準年利率で相続開始時点の現在価値に割り引いて評価した。だが筆者は、本件権利は定期金給付契約に準ずる基本債権と捉えて、相続税法第24条第5項によって評価をすべきと考える。[9]

 本件債権が「無利息の貸付に類似するもの」あるいは「定期金給付契約に準ずるもの」とするならば、相続開始後にX1が受け取った具体的な和解金に対する所得税の課税が問題となる。いわゆる長崎年金訴訟に対する最高裁判決[10]の射程範囲に入ることになる。

X1は、和解金を受け取った各年の一時所得として所得税の確定申告をしたが、相続税の更正処分を受けた後に、その所得税の申告は誤りであった(課税されるべきではなかった)として、X1の住所地を所轄する税務署長(以下「他税務署長」という)に更正の請求をしたところ、更正すべき理由はないとする通知処分を受けた。他税務署長は、「和解金の支払期限や金額が特定されているものではない」から、この和解金は定期金には該当しないと判断して、所得税法第67条の4[11]に基づいて処分をしたと推測するが、各年の和解金は和解契約により定められた方法により計算されており、支払い日もA社の「事業年度決算日から3か月を経過した日の後最初の金融機関の営業日」と決められているのであるから、定期金(少なくともそれに準ずるもの)として「相続税の課税対象となる経済的価値と同一のものということができ、所得税法9条1項15号により所得税の課税対象とならない[12]」という結論が導かれるのではないだろうか。

 もっとも、上記最高裁判決に対しては、租税理論家からの批判がある[13]。すなわち、相続税贈与税は経済価値の移転に対する課税であり、所得税は経済価値の創出に対する課税であって、租税法上は別の「所得」に対する課税なので、それぞれに課税することは決して二重課税ではない、とするものである。この立場からは、二重課税と考えられのは相続開始後に課される所得税の部分のみとなり、理論的には、相続時の基本債権の評価時に将来課税されることが予測される所得税を「隠れた債務」として控除すべきであるとされる。[14]

 筆者は、本件債権は、契約に基づかない定期金の基本債権であり、X1の所得税の更正の請求が認められるべきだと考えるが、仮に認められないのであれば、本裁決の採用した評価方法では本件債権を過大評価していると思う。評価通達において「隠れた債務」が斟酌されるのは、定期預金に関する経過利子に対する源泉所得税等などごく一部に限られ、大半の財産については斟酌されない。[15] 例えば特許権の評価については、将来受ける補償金の額を基準年利率により課税時期に割り引いて計算する(評価通達140)ことが定められ、将来課されるであろう所得税を隠れた債務として控除するとはされていない。こうした「隠れた」債務に対する斟酌は、実際には「評価の安全性」など別の形、例えば特許権については権利に基づき将来受ける期間の推定(評価通達143)など全く理論的でない形で表面化させないようにしてきたのだと思われる。[16]

 本裁決の後に請求人らは相続税の課税処分取り消しの訴えを起こしたのであろうか。また、X1は所得税に関する他税務署長の処分を不服とし再調査の請求や審査請求を行ったのであろうか。[17]相続税に関する判断が所得税の結論を左右しかねない本件において、X1はどのような戦略で争訟手続きをすすめていけばよかったのか。いろいろ考えさせられる事案であった。

 

APPENDIX

和解契約3号の内容〉

(3) A社が、本件処分場の営業を開始した年から、毎年、同社の事業年度決算日から3か月を経過した日の後最初の金融機関の営業日に、同社の決算書に記載された税引後の利益の■■に相当する金額又は事業年度決算日の属する暦年ごとに1暦年通算50,000,000円のいずれか少ない方の金額

 ただし、上記(3)に基づく支払は、上記(3)に基づく支払額の合計500,00

0,000円までとする

 

〈通知処分の内容〉

1 あなたは、平成29年7月6日に、本件各年分の一時所得の金額について、■■■■■から受領した金員(本件和解金残額の一部であり、別紙6においては、以下「本件金員」という。)は、■■■■■■が行った相続税の更正処分により、所得税法第9条《非課税所得》第1項第16号に規定する非課税所得に該当することとなるため、納付すべき税額が過大となったとして、本件各年分の所得税等の各更正の請求書を提出しています。

2 しかしながら、所得税法第9条第1項第16号の趣旨は、相続税等の課税対象となる経済的価値に対しては所得税を課さないこととして、同一の経済的価値に対する相続税等と所得税との二重課税を排除したものであると解されるところ、以下の事実より、あなたが本件被相続人から相続により取得した、本件和解契約書による本件和解契約に基づく支払請求権(本件権利)と本件金員は経済的価値が同一とはいえず、相続税所得税との二重課税には該当しないことから、本件金員は所得税法第9条第1項第16号に規定する非課税所得に該当しません。

(1) あなたが取得した支払請求権(本件権利)は、本件和解契約書第1項ないし第8項の規定からすれば、和解金の支払期限や金額が特定されているものではないこと。

(2) 本件金員は、本件和解契約書第8項第3号に規定する日に支払うべき金額が確定したことで、受領する権利がその時点で確定した金銭債権に基づき受領した金銭であること。

 したがって、あなたが本件各年分の所得税等の各確定申告書に記載した課税標準等若しくは税額等の計算が国税に関する法律の規定に従っていない又は当該計算に誤りがあるとは認められませんので、更正をすべき理由はありません。

 

 文末脚注

[1] 後の記述と併せるとX1はA社の代表取締役と推測される。

[2] 金額部分は黒塗りされているが、4か年が同額なので各年の上限金額と推測される。

[3] 相続税の修正申告が提出されたのが平成28年4月であることから、X1が所得税の確定申告したのは相続税の調査開始後であったと思われる。

[4] 一連の記載から遺産分割後に申告が行われたとみられることから、申告は平成26年中と推測される。

[5] 課税の対象となる場合、一時所得ではなく雑所得となると考えるがそれはおく。

[6]  A社は和解契約時に10億円全額を損金算入していた可能性がある。その場合法人税の申告において別表調整していなければ、法人税基本通達2-2-13の注書き「損害賠償金を年金として支払う場合には、その年金の額は、これを支払うべき日の属する事業年度の損金の額に算入する。」に反している可能性がある。

[7] この記述から、筆者はX1がA社の代表者であると推測した。そうすると、被相続人とA社の争いは同族間の争いであったことになる。

[8] A社の貸借対照表に本件和解金残額が長期未払金で債務に計上されていたことから、原処分庁は深く考えることなく通常の貸付金と同様に評価通達204を適用したのではないか。

[9] その場合も評価額は審判所が計算した金額と同額になると思われる。

[10] 最判 平成22年7月6日

[11] 平成23年度の税制改正により創設された。

[12] 前出10

[13] 篠原克岳 税大論叢(77), 1-68, 2013-06

[14] 前出13

[15] 源泉分離課税により完結する預金利息と違って総合課税の対象となる将来の所得に対する隠れた所得税は「確実な債務」とは言えないために通達上考慮されないのであろうが、相続税の債務控除ではなく財産の評価なのであるから一定の条件のもとで考慮して良いのではないか。

[16] 前出13

[17] 本裁決に記載がないことから、おそらくX1はそうしたアクションをとっていない。