寄附金/高額譲受け/貸付金等と相殺するために取得した土地

法人税 採決 

寄附金/高額譲受け/貸付金等と相殺するために取得した土地

広裁(法)平29-24 平30-06-01裁決 (棄却)

TAINS F0-2-825(情報公開法第9条第1項による開示情報)         

0.はじめに

 亡父親が経営していた2つの会社を別々に承継した兄弟が、これらの会社をさらにそれぞれの子供に承継させようとする際、これら2社間に父親の代から長期にわたって弁済されていない内容不明の債権があったとしたらどうするだろうか。特に債務会社の経営が苦しい場合、債務者側は債務免除をしてもらった上で子供に承継させたいと考えるだろうし、債権者側も一部を弁済してもらえるならば残額の免除に応じてもよいと考えるのではないだろうか。

 本件は、こうした同族会社間の債権を債務会社が所有する低時価の土地を債権会社が債権額相当額で購入し、売買代金債務と当該債権を相殺して処理した債権会社が課税処分を受けた事案である。採決を一読した時、比較的起こりうる事案だと思ったのと同時に、審判所の棄却という結論自身は妥当かもしれないがその理由説明に疑問を感じたので取り上げることとした。

 

1 事案の概要

 不動産売買業を営む会社が売上原価とした土地の取得価額は時価に比して高額であるとして行われた法人税の更正処分に対し、当該土地の取得価額は適正なものであるなどとして処分全部の取消しを求めた事案

 

2 基礎事実

 請求人等の概要及び土地の取引状況等

 土地の購入先(A社)は、請求人(X社)の取締役P(代表取締役代表取締役の夫?)の兄Qが代表者を務める不動産の売買を目的とする会社である(売買当時)。X社及びA社はP,Qの父(平成13年死亡)が創業した。

 平成21年8月時点でX社はA社に対し119百万円の貸付金と49百万円の未収入金(以下「本件債権」という)を有していた。

平成22年春頃、X社がA社の所有する土地(以下「本件土地」という)を購入し、その対価と相殺することで本件債権を清算することとした。

 平成22年6月、X社は本件土地を売買金額184百万円余(A社のX社に対する長期借入金勘定残高相当、以下「本件売買価格」という)で購入し、当該金額で棚卸資産に計上した。同時に本件債権を消滅させ、売買金額との差額約16百万円は受贈益とした。

 平成23年8月期(平成22年7月1日~平成23年8月31日事業年度)、X社は宅地造成等を行った後の本件土地を、合計49百万円余りで売却した。上記184百万円と造成等費用7百万円余を合わせた合計191百万円を売上原価として平成23年8月期に損金算入した。

原処分

 原処分庁は、平成29年3月、本件土地の取得時の時価は72百万円余り(注)であり184百万円との差額111百万円(以下「本件差額」という)は損金の額に算入できないとして、平成23年8月期及び平成27年8月期の法人税の更正処分及び平成27年8月期の法人税に係る過少申告加算税の賦課決定処分をした。

 (注)本件土地の最も近隣に所在する地価調査基準地の1平米当たりの金額と本件土地と当該基準地の固定資産税評価額の比から計算された1平米あたりの金額42,471円に本件土地の面積1715.05平米を乗じて算定している。

 

3 争点

 争点1 本件差額は、売上原価として平成23年8月期の損金の額に算入することができるか否か。

 争点2 本件差額のうち、本件債権の額と本件土地の取得時の時価との差額に相当する金額は、法人税基本通達9-6-1(4)(以下「本件通達」という)により、貸倒れとして平成23年8月期の損金の額に算入することができるか否か。

 

4 争点1について

原処分庁の主張

 本件差額は、売上原価として平成23年8月期の損金の額に算入することはできない。

 請求人は、金融機関等の債権者から早急な返済を迫られていたA社に対する本件債権の回収を目的として、本件土地を売買するという契約形式を採用した。本件土地の売買価額は、A社における請求人からの長期借入金勘定の残高を基にQが算定したものであり、PはQが親族関係にあることから、この売買価額を追認した。本件債権差額は、請求人から実質的にA社に贈与されたものであり、寄附金の額に該当する。当該寄附金の額に該当する約96百万円が支出されたのは、本件土地の引渡日を含む平成22年8月期である。

 

請求人の主張(一部省略)

 本件土地の取得価額は適正であるから、本件差額は売上原価として平成23年8月期の損金の額に算入できる。

 売買価額はA社側から提示されたもので、Aは提示価額以外では売買取引に応じなかった。本件売買価格で本件土地を譲り受けることで、長年返済が滞っていた本件債権を清算することができ、損失を軽減して本件債権を少しでも回収できると考えたもので不合理なものではない。

 

5 争点2について

原処分庁の主張

 本件債権について請求人がA社に対して債務免除の意思表示を行ったことを裏付ける証拠はなく、免除の意思表示が行われた事実はないから、本件債権差額を貸倒れとみる余地はない。

 本件債権差額が本件通達に定める3つの要件を充足することを示す証拠もない。

 仮に、請求人が主張するように、本件債権について実質的な貸倒損失による債務の一部免除をした場合に該当するとしても、本件差額が損金の額に算入することになるのは、平成22年8月期であり、平成23年8月期ではない。

 

請求人の主張

 仮に、本件債権差額を売上原価として平成23年8月期の損金の額に算入することができないとしても、本件通達により、貸倒れとして平成23年8月期の損金の額に算入すべきである。

 売買契約に先立ち、A社から請求人に対し本件土地を売却し、A社の請求人に対する債務を消滅させたい旨の申し出があったことは明らかである。従って、一連の事実は、請求人がA社に対し書面によって免除の通知をしたと同一に評価できる。

 本件土地の売買契約当時、A社は、(中略)多くの金融機関等に多額の負債を抱え、所有不動産はこれらの担保に入っているなど財政的にひっ迫した状況であった。

 請求人は、本件土地を購入翌年の平成23年にすぐに売却することを予定しており、本件土地を売却することにより、土地売却損すなわち貸倒れ損失が具体的に現実化するので、売却した時点で損金の額に算入するのが、本件土地の取引による損失額が明確となると考えて、売却した平成23年8月期の損金の額に算入したのであり、貸倒れによる免除の事実が発生したのは、平成23年8月期である。

 

6 審判所の判断

(1) 争点1について

法人税法第37条(寄附金の損金不算入)の解釈

 時価との差額が当然に寄附金の額に含まれるものとされるのではなく、当該差額のうち実質的に贈与したと認められる金額に限られているのであり、(中略)実質的に贈与したと認められるためには、当該取引に伴う経済的効果が贈与と同視できるものであれば足りるのであって、必ずしも贈与の意思を有していたことを必要とせず、時価との差額を認識していたことも必要としないと解すべきである。

 

認定事実

 X社のA社に対する貸付金は、P,Qの父が経営していたころから存在し、貸付けた経緯もわからないまま、毎事業年度末の決算報告書に計上されてきた。平成22年春、P及びQは、自分たちの年齢等を考慮し、本件債権を清算しておく必要があるとの結論で合意した。

 Qの提案により、本件債権と本件土地の購入代金に係る支払い債務とを相殺することで、本件債権の全てを消滅させることとし、X社とA社の間で本件土地の売買契約が締結された。本件売買価額は、本件土地の周辺の売買実例等を参考とした本件土地の時価を考慮した上で決定されたものではなく、Qが提案した金額をPがそのまま受け入れて決定された。

 Pは、本件土地を購入することによって、本件債権の一部でも回収できれば良いと考えて、Qが提案した金額を売買価額として承認していたことからすれば、本件土地の売買契約時において、本件土地の時価が本件債権の額よりも低額であることを認識していた。

あてはめ

 原処分庁の本件土地の時価の算定方法を合理的とし、本件土地の取得価額184百万円は高額であるとした。

 請求人は、不動産売買を目的とする株式会社であるにもかかわらず、販売用の土地として本件土地を購入する際に、いわば時価を無視し、購入前から多額の売却損失を見込みながら、あえて本件土地の売買取引を実行しているのであり、そこには経済的合理性はなく、本件土地の売買価額に時価とのかい離を正当化するような事情はないといえるから、本件差額は、その全額がX社からA社への対価のない経済利益の移転部分とみるのが相当であり、贈与と同視することができる。

(2) 争点2について

法令解釈等

 本件通達は、法律上、金銭債権が消滅した場合の貸倒れ基準の一つである。この取扱いは、書面による債務免除が、その債権が回収不能となったことにより行われた場合には、その債務者に対し書面により明らかにされた債務免除額を貸倒れとして損金の額に算入することを明らかにしたものであり、当審判所においても相当であると認められる。

認定事実

 請求人は、本件債権差額について、A社の債務を免除するという内容の書面を作成しておらず、請求人とA社との間の本件土地の売買契約書にも本件債権差額に係る債務を免除する旨の文言は記載されていない。

あてはめ

 書面をもって債務を免除した事実は認められないから、他の要件を検討するまでもなく、本件債権差額の消滅は、本件通達を適用するための要件を満たさない。

請求人の主張について

 本件土地の売買に先立ち、A社から、請求人に対する債務を消滅させたい旨の申出があり、これに基づき売買契約を締結した一連の事実から、書面による免除の通知をしたのと同一に評価できると主張する。しかし、本件通達は書面による債務の免除を要件としており、これが存在しない以上、本件通達を適用することはできない。

 

 平成23年8月期において、本件差額を売上原価として損金の額に算入することはできないし、また、本件債権差額を貸倒損失として損金の額に算入することもできない。本件各更正処分は、いずれも適法である。

 

7 検討

あるある事案

 亡き父親が経営していた2つの会社をそれぞれ引き継いだ兄弟が、さらにそれぞれの子供にそれらの会社を承継させようとする場合、これら2社間に父親の時代から長期にわたって計上されてきた内容不明の債権債務があるときには、これを清算しておこうとするのは自然なことである。特に債務者側にその思いは強いであろう。このとき、債権者側は、債務者の経営が客観的に苦しいことが見て取れた場合、その債権の一部でも弁済してもらえばあとは免除してもよいという気持ちになりがちである。しかし、このような債権債務の清算は、相当慎重に行わない限り大きな課税リスクを背負うことになる。

請求人は、債務者であるA社が所有する土地の時価を本債権額よりも相当低いと認識しつつ本債権額(正確には債務者側での債務の帳簿価額)で買い受け、その代金を本債権額と相殺した。原処分庁は、この行為をいわゆる高価買受として買受金額を取得価額(売上原価)として認めず、買受額と時価との差額を寄附金と認定した。審判所も、請求人がこの売買で多額の損失が出ることを予定しておりその行為は合理的でないと断じた。

 裁決書には明示的には書かれていないが、この事案の争点を上記争点1と争点2に整理したのは、法人税法第22条3項の構造に由来すると思われる。そこでは、各事業年度の損金に算入すべき金額として、(1)売上原価、完成工事原価その他これらに準ずる原価の額、(2)販売費、一般管理費その他の費用、(3)損失の額で資本等取引以外の取引に係るものとある。そして争点1で売上原価該当性を検討し、争点2で貸倒損失該当性を検討しようとしたものと考えられる。しかし、審判所の一連の判断には、次のような問題があると考える。

採決の問題点

争点1について

 本件差額を売上原価には該当しないとした審判所の判断は妥当だと考える。法人税法施行令第32条第1号は、「購入した棚卸の取得価額」を「当該資産の購入の対価」(と付随費用の合計額)としているが、当初から損失を予定するなど買手がその資産の時価を購入対価よりも明らかに低いと認識していた場合には、第3号の「前2号に規定する方法以外の方法により取得をした棚卸資産」として、その取得価額を「その取得の時における当該資産の取得のために通常要する価額」(と付随費用の合計額)とすべきことになる。

 しかし、その差額の評価について、争点2を論ずる前に「(請求人の行為には)経済的合理性はなく」「その全額が請求人からA社への対価のない経済利益の移転部分とみるのが相当であり、贈与と同視することができる」と断じたのは論理の飛躍であると思う。

争点2について

 審判所は、請求人が書面をもって債務を免除したとは認められないので貸倒れとすることはできないとしたが、その判断は形式的にすぎると思う。もしA社が大きな債務超過に陥っており本件債権の弁済の見通しが全くたたない状態であったとしたら、本件売買とそれと同時に行われる債権債務の相殺は、債権の一部を回収し他は免除をするのと同じ経済的効果を持ち、X社にとって全体として合理的な行為である。審判所は取引の形式にこだわらず、本件債権差額の実質が寄附金であるのか貸倒れであるのかを精査すべきであろう。裁決書で、請求人の「一連の経緯を考えると確かに書面での債務免除をしているわけではないが、この売買契約はそれと同視できる」との主張を記載しているにもかかわらず、同視できるかどうかについては全く触れず、通達にある「書面による免除」がその言葉通りの形で実行されていないことのみをもって他の2要件について一切検討することなく請求人の主張を退けたことは納得しがたい。この意味で、採決は納税者の主張に正面から向き合っていないと考える。裁判官と違い、審判官が通達に制約されることは一定仕方のないことではあるが、通達の趣旨目的をしっかりふまえた裁決であるべきではないだろうか。単に「(この通達は)当審判所においても相当であると認められる」との枕詞を言えば済む問題ではない。

納税者はどうすればよかったのか

 とはいえ、本件争訟を避けるために、X社は、売買実行前に相手の財務状況をしっかり精査し本件通達の他の2要件が満たされていることを確認したうえで、本件売買を通常の売買契約プラス債権債務の相殺ではなく、代物弁済契約とすべきであった。また、審査請求においても、購入金額が時価であるとか購入金額をもって取得価額としてよいという主張はせずに、貸し倒れだということを最初から前面に出すべきであったと思う。それをしなかったのは、貸倒れに関する本件通達の他の2要件も立証困難と考えたからかもしれない。

蛇足

 本件差額の損金算入が否認された事業年度は平成23年8月期であるにもかかわらず、平成23年8月期の処分は更正のみで過少申告加算税は課されていない。一方、平成27年8月期に対しての更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分が行われている。これはとりもなおさず、平成23年8月期から平成26年8月期までの事業年度は課税所得が生じなかったことを意味する。X社は、本件売買契約当時、相当大きな繰越欠損金をかかえていて多少乱暴な処理をしても税務調査が及ばないと考えたのだろうか。

 

関係法令・通達

法人税法 第37条 (寄附金の損金不算入) 

1~6 省略

7 前各項に規定する寄附金の額は、寄附金、拠出金、見舞金その他いずれの名義をもつてするかを問わず、内国法人が金銭その他の資産又は経済的な利益の贈与又は無償の供与(広告宣伝及び見本品の費用その他これらに類する費用並びに交際費、接待費及び福利厚生費とされるべきものを除く。次項において同じ。) をした場合における当該金銭の額若しくは金銭以外の資産のその贈与の時における価額又は当該経済的な利益のその供与の時における価額によるものとする。 

 

法人税法施行令 第32条 (棚卸資産の取得価額)

 第28条第1項又は第28条の2第1項の規定による棚卸資産の評価額の計算の基礎となる棚卸資産の取得価額は、別段の定めがあるものを除き、次の各号に掲げる資産の区分に応じ当該各号に定める金額とする。

1 購入した棚卸資産(法第61条の5第3項(デリバティブ取引による資産の取得) の規定の適用があるものを除く。)  次に掲げる金額の合計額

イ 当該資産の購入の代価(引取運賃、荷役費、運送保険料、購入手数料、関税(関税法(昭和29年法律第61号) 第2条第1項第4号の2(定義) に規定する附帯税を除く。) その他当該資産の購入のために要した費用がある場合には、その費用の額を加算した金額)

ロ 当該資産を消費し又は販売の用に供するために直接要した費用の額

2 自己の製造、採掘、採取、栽培、養殖その他これらに準ずる行為(以下この項及び次項において「製造等」という。) に係る棚卸資産 次に掲げる金額の合計額

 イ 当該資産の製造等のために要した原材料費、労務費及び経費の額

 ロ 当該資産を消費し又は販売の用に供するために直接要した費用の額

3 前2号に規定する方法以外の方法により取得(適格分社型分割、適格現物出資又は適格現物分配による分割法人、現物出資法人又は現物分配法人からの取得を除く。以下この号において同じ。) をした棚卸資産 次に掲げる金額の合計額

 イ その取得の時における当該資産の取得のために通常要する価額

 ロ 当該資産を消費し又は販売の用に供するために直接要した費用の額

 

法人税基本通達9-6-1(金銭債権の全部又は一部の切捨てをした場合の貸倒れ)

 法人の有する金銭債権について次に掲げる事実が発生した場合には、その金銭債権の額のうち次に掲げる金額は、その事実の発生した日の属する事業年度において貸倒れとして損金の額に算入する。

(1) ~ (3) 省略

(4) 債務者の債務超過の状態が相当期間継続し、その金銭債権の弁済を受けることができないと認められる場合において、その債務者に対し書面により明らかにされた債務免除額