無申告加算税/期限内申告書提出の意思・確定申告書の記載事項

   無申告加算税/期限内申告書提出の意思・確定申告書の記載事項

                               区分:消費税

大阪国税不服審判所 平成30年6月5日裁決(棄却)(TAINS: F0-5-249)

1.はじめに

 私たち税理士は、税務申告における法定申告期限に常に注意を払っている。その期限に一日でも遅れると、たとえうっかりミスによるものであって、すぐにそれに気づいて申告したとしても本税の5%相当の無申告加算税が課されてしまうという原則があるからである。

 以前はこのうっかりミスを救う手立てはなかったが、関西電力事件(平成14年分消費税及び地方消費税、本税247憶円、無申告加算税12億円)の司法決着(大阪地裁平成17年9月16日判決、棄却)を受けて、平成18年度の税制改正において国税通則法(以下「国通法」)が改正され、一定の救済制度が作られた。具体的には、平成19年1月1日以降に法定申告期限が到来する申告について、法定申告期限までに納税をすませ、かつ過去5年以内に同じ税目について無申告加算税等を課されていないことなどを条件に、申告期限から2週間(平成27年度改正によってひと月)以内の期限後申告に限り、法定申告期限までに申告の意思があったとして無申告加算税が課されないこととされた(国通法第66条第6項〈当時、平成28年改正から第7項〉、国通法施行令第27条の2)。そして、所得税個人消費税について振替納税を利用している納税者については、法定申告期限までに納税することが事実上不可能であるため、「当該期限後申告書を提出した日まで」の納税とされた。

 しかし、振替納税利用者に対するこのような規定では、うっかり納税前に期限後申告書を提出してしまって国通法66条7項の適用が受けられないということが起こりがちなのである。今回取り上げた事案は、消費税及び地方消費税(以下単に「消費税等」という)の振替納税を利用している個人事業者が、消費税等の納税と期限後申告書の提出の順番を間違えたため後に無申告加算税を課税されてしまったことにたいして審査請求をしたというものである。法令解釈という観点からは、請求棄却という結論は当然だと考えるが、立法論的観点からは、現在の法令の規定ぶりは納税者間の公平という点で疑問を感じざるを得ない。

 この事案にはもう一つの側面がある。請求人の申告が期限後申告となってしまった原因は、納税者(おそらくその納税者から依頼を受けた税理士法人の職員)が過年度の申告書を当年の申告書と間違えて提出してしまったためである。現在、ほとんどの税務申告書は何らかのコンピュータソフトを利用して作成されるが、作成したデータをいざ印刷したり、電子申告したりする際に、自分が意図したファイルと違うものを読みだしてしまうリスクが存在する。私自身が税理士として駆け出しだった十数年前に同様の失敗をしかけた経験があるため、この事案は相当リアルに感じた。

本事案の検討を通じ、こうしたミスを防ぐためにどのような注意を払わなければならないか、また万一ミスをしてしまったときにどのように対処するかを改めて考えてみた。

 

2.事案の概要

審査請求人(請求人)が、平成28年1月1日から平成28年12月31日までの課税期間(平成28年課税期間)の消費税等の法定申告期限までに、課税期間を平成27年1月1日から平成27年12月31日までの課税期間と記載した消費税等の確定申告書(本件先行申告書)を提出し、法定申告期限後に、課税期間を平成28年課税期間と記載した消費税等の確定申告書(本件後続申告書)を提出したところ、本件後続申告書が、期限後申告書に該当するとして、無申告加算税の賦課決定処分が行われた。これに対し請求人が、本件先行申告書は平成28年課税期間の消費税等の確定申告書であり、期限内申告書に該当することから、本件後続申告書は期限後申告書ではないなどと主張して、原処分の全部の取消しを求めた。

 

-基礎事実-

請求人は弁護士業を営む者であり、従来から消費税等の納税について振替納税を利用していた。平成27年分の消費税申告書は平成28年3月15日に提出した。

平成29年3月15日、課税期間として平成27年1月1日~平成27年12月31日と記載した申告書(本件先行申告書)を提出した。税額その他の記載内容は平成27年分申告書と同じである。この申告書は平成28年分の所得税と同時に郵送提出された。

平成29年4月26日、請求人事務所事務員は、平成28年課税期間の消費税等の確定申告について、誤って平成27年課税期間と記載した消費税等の確定申告書を提出したとしてこのような場合における本件先行申告書及び加算税の取扱いについて問い合わせた。

平成29年4月28日、課税期間として平成28年1月1日~平成28年12月31日と記載された申告書(本件後続申告書)が所轄税務署に到達した(請求人の関与税理士法人から簡易書留で提出、通信日付は4月26日)。

平成29年4月27日、請求人は平成28年分消費税等の本税を金融機関窓口で納付した。

平成29年5月31日、無申告加算税の賦課決定処分が行われた。

 

3.争点

(1)本件後続申告書は、平成28年課税期間の消費税等の期限後申告書であるか。

(2)仮に、本件後続申告書が期限後申告書である場合、本件後続申告書の提出は、通則法第66条第7項に該当するか。

 

4.納税者の主張

争点1について

以下の理由から、本件先行申告書は平成28年課税期間の消費税等の確定申告書であり、本件後続申告書は修正申告書であって期限後申告書ではない。

イ)本件先行申告書は平成28年分の所得税の確定申告書と同時に郵送提出され、その控えは、収受受付印が押印された所得税の確定申告書の控えと同時に請求人に返送された。

ロ)請求人事務所事務員は4月26日の問い合わせ時に本件先行申告書が平成28年分課税期間の消費税等の確定申告書である旨と税務署担当者に伝えた。

 

争点2について

請求人は、本件税務署担当者から、本件後続申告書の至急の提出を求められ、通信日付が翌日以降になることを避けるために、わざわざ簡易書留郵便により本件後続申告書の提出をしたものである。このような場合について、通則法第22条を適用し、請求人を不利に扱うことは、同条の趣旨に合致しないから、本件後続申告書の提出日は、到達主義による日(平成29年4月28日)とすべき。そうすると、通則法施行令第27条の2第1項第2号に該当する。

 

仮に、本件後続申告書の提出日が平成29年4月26日とみなされたとしても、本件後続申告書に係る消費税等の納付日が本件後続申告書の提出日より1日遅いことをもって、形式的に、通則法施行令第27条の2第1項第2号に該当せず、通則法第66条第7項に該当しないとするのは、誠実な納税者の適正な申告納税の意欲を削ぐような結果となることを避けるという同項の制定の趣旨を逸脱するものである。

 

また、本件税務署担当者は、請求人事務所事務員からの問い合わせに対し、本件後続申告書の至急の提出を求めるとともに、無申告加算税について、一般的に、法定申告期限から1か月以内に申告書の提出及び納付をすれば賦課されない旨の指導をしたが、申告書の提出と納付を同時にしなければ賦課される旨の指導はしていない。請求人は、このような誤った指導に従って、速やかに申告及び納付をしたのであるから、本件後続申告書の提出が通則法第66条第7項に該当しないとして無申告加算税を賦課することは、信義則に反するものである。よって、本件後続申告書の提出は、通則法第66条第7項に該当するとすべき。

 

5.審判所の判断(処分庁の主張とほぼ同じ)

審判所は次のように述べて請求人の主張を退けた。

-争点1について-

消費税法消費税法施行規則、租税特別措置法の規定により、個人事業者は、その年の12月31日の属する課税期間の翌年3月31日までに、当該課税期間の初日及び末日の年月日その他一定の事項を記載した申告書を税務署長に提出しなければならないとされている。本件先行申告書に、課税期間の初日の年月日として平成27年1月1日を、末日の年月日として平成27年12月31日を記載していたことから、本件先行申告書は、平成28年課税期間の消費税等の確定申告書ということはできない。一方、本件後続申告書に課税期間の初日の年月日として平成28年1月1日を、課税期間の末日の年月日として平成28年12月31日を記載していたことから、本件後続申告書は、平成28年課税期間の消費税等の確定申告書と認められる。本件後続申告書の通信日付印は平成29年4月26日であるから、本件後続申告書は、同日に原処分庁に提出されたものとみなされ、本件後続申告書は期限後申告書である。

請求人の主張するような事情を考慮することになれば、本件後続申告書の記載事項自体をもって、本件後続申告書がいつの課税期間の消費税等の申告書であるかを判断することができず、租税法律関係の安定性を害することになるから、請求人の主張は採用することができない。

 

-争点2について-

通則法第66条第7項によれば、期限後申告書の提出があった場合であっても、通則法施行令第27条の2第1項各号に該当するなどの要件を満たす場合には、無申告加算税は賦課されないところ、同項第2号は、当該期限後申告書に係る納付について口座振替納付の依頼を税務署長が受けていた場合について、当該期限後申告書に係る納付すべき税額の全額が、当該期限後申告書を提出した日までに納付されていたときという要件を規定している。

本件後続申告書の提出日は、通則法第22条により、平成29年4月26日とみなされる一方、請求人は、本件後続申告書に係る納付すべき税額の全額を平成29年4月27日に金融機関にて支払っており、すなわち本件後続申告書の提出日後に支払ったこととなる。

 したがって、請求人は通則法施行令第27条の2第1項第2号の要件を満たすものではなく、本件後続申告書の提出は、通則法第66条第7項に該当するものとはいえない。

 

-請求人の主張について-

通則法第22条は、納税申告書が郵便又は信書便により提出された場合の提出日について、その郵便物又は信書便物の通信日付印により表示された日と「みなす」と規定しており、個別的な事情により、通信日付印により表示された日以外を提出日とすることを認めていないものと解されるから、この点に関する請求人の主張は採用することができない。

無申告加算税は、法定申告期限までに納税申告書の提出がなければ、原則としてその納税者に対し課されるものであり、国通法66条7項及び施行令27条の2第1項2号は、その例外として無申告加算税の賦課されない要件について、具体的に規定していることからすると、その要件を満たさない場合にまでも、その他の事情を考慮することによって、国通法66条7項を適用ないし類推適用することはできないというべきである。

請求人は、本件税務署担当者が、申告書の提出と納付を同時に行うべきことに言及せずに、法定申告期限から1か月以内に申告書の提出及び納付をすれば、無申告加算税が賦課されないと指導し、請求人がこの誤った指導に従って、速やかに申告及び納付をしたのであるから(無申告加算税を課すことは)信義則に反するものであると主張する。しかしながら、請求人が主張するような本件税務署担当者の指導があったことを認めるに足りる証拠はない。仮に、請求人の主張するような税務署担当者の指導があったとしても、当該指導は、税務署長等のように一定の権限を有する者ではない一担当者がしたものであって、これをもって、税務官庁の公的見解の表示とはいえないから、上記特別な事情があるということはできない。

 

6.考察

裁決書では、税務署に電話相談をしたのが事務所職員とあるが、その後の経緯を見ると関与税理士法人の職員ある可能性が高い。実際のリアルな経過はつぎのようなものではなかったか。

 平成29年4月26日、請求人は自身の通帳を確認したところ、前日に引き落とされるはずの平成28年分消費税等の引き落としがないことに気づき、申告書作成提出を依頼した税理士法人に連絡した。連絡を受けた税理士法人の担当職員は、手元にある申告書控えを確認し、提出していたものが平成27年分の申告書であったことに気づき、即座に所轄税務署に連絡、相談した。次いで平成28年分の申告書をプリントアウトし納付書も作成、これらを即日請求人に届け、捺印をもらい、申告書はその日のうちに簡易書留で所轄税務署に郵送。請求人は、翌27日に金融機関窓口にて納税した。

電話相談を受けた税務署職員は、無申告加算税が課されないためには申告書の提出までに納税を済ませることが必要とまでは指導しなかった可能性が高いと思われる。そのような表現で指導していれば間違える可能性はまずない。その税務署職員はせいぜい同時に納付すれば良いとまで言っただけなのではないか(裁決書にも同時という言葉が出てきている)。しかし同時という言葉では、同じ日でなくてはならないのか、多少前後してもよいのかわからない。ここで、この税理士法人の職員は根拠条文をしっかり確認すべきであったのだが、自分のミスで依頼者に迷惑をかけてしまったとあせっていたのであろう、とにかく早く申告書を提出しなければならないと考えてその日のうちに簡易書留で提出したのではないだろうか。

 

-争点1について-

 審査請求の中で納税者は先行申告書が平成28年課税期間の消費税等の期限内申告書であるとの主張を行った(争点1)が、これはあとになって考えた理屈だと思う。4月26日に後続申告書を提出した際には、その後続申告書を期限後申告書であると考えていたに違いない。しかし、賦課されないと思っていた無申告加算税が課されてしまい、また、常識的には認められるべき国通法66条7項の適用が条文解釈上無理があることがわかったため、事実認定で争いの余地がある争点1が主張されたのだろう。

 しかし、提出された消費税等の申告書が過年度の申告書と全く同じ内容のものである場合、たとえそれが当年の所得税の申告書と同時に提出されている場合であってもそれを当年の消費税等の申告とみなすことには無理がある。錯誤により先行申告書を提出したのでその先行申告書が無効という理屈はあり得るが今回のケースではその主張は意味がない。過年度の課税期間を記載した申告書が当年の申告書と認められる可能性がある状況とは、当年分として新たに作成した申告書に課税期間の開始日と終了日を書き間違えて提出してしまったというような場合だろう。処分庁も課税期間の記載だけがすべてと主張しているわけではない。処分庁はその主張の中で、「本件先行申告書に平成27年課税期間の内容を記載した書類は添付されているが、その他の書類は添付されていない」と提出された申告書の内容が前年とおなじであったことも先行申告書が期限内申告書でなかった理由の一つとして挙げている。おそらく総合的に判断するということであろう。

 

-争点2について-

 国通法66条7項が作られた趣旨からいえば、この事案についても無申告加算税を課さないこととするほうが公平ではないか。つまり、納税を待ってから期限後申告書を提出した者と、未提出となっていることに気づきすぐに期限後申告書を提出し、その翌日に納付をした者と比較した場合、前者のみを救い後者を救わないとするのは明らかに不公平である。だが、この不公平さを解消しつつ、振替納税を利用しない者との公平を保つことは意外と難しい。立法者も、国通法66条7項はあくまで恩恵的な措置に過ぎないのであるから、そこに多少の不公平が含まれていてもかまわないと考えたのかもしれない。

 

 -最後に―

申告書、届出書等に記載すべき年月日を誤ってしまうといったミスは時として致命的になり得る。こうした単純ミスは、提出までのどこかの時点で一定のチェックを行うことで防げるものではあるが、確定申告期など数多くの業務をこなさなくてはならない時期にはそのチェックをすり抜けてしまう恐れもある。私たち税理士は、自分の使用している申告書等の作成システムの特徴を知り、また自らの申告書作成提出手順を折に触れて見直し、どのようなミスを犯してしまいがちなのかを考えその予防につとめなければならない。また、万一ミスを犯してしまった場合には、(たとえ税務署等の職員に相談するとしても)自ら法令通達等を確認した上で次善の策をとる必要があるのである。

 

関係法令

国税通則法

(郵送等に係る納税申告書等の提出時期)

第二十二条 納税申告書(当該申告書に添付すべき書類その他当該申告書の提出に関連して提出するものとされている書類を含む。)その他国税庁長官が定める書類が郵便又は信書便により提出された場合には、その郵便物又は信書便物の通信日付印により表示された日(その表示がないとき、又はその表示が明瞭でないときは、その郵便物又は信書便物について通常要する送付日数を基準とした場合にその日に相当するものと認められる日)にその提出がされたものとみなす。

 

無申告加算税) 

第六十六条

次の各号のいずれかに該当する場合には、当該納税者に対し、当該各号に規定する申告、更正又は決定に基づき第三十五条第二項(期限後申告等による納付)の規定により納付すべき税額に百分の十五の割合(期限後申告書又は第二号の修正申告書の提出が、その申告に係る国税についての調査があつたことにより当該国税について更正又は決定があるべきことを予知してされたものでないときは、百分の十の割合)を乗じて計算した金額に相当する無申告加算税を課する。ただし、期限内申告書の提出がなかつたことについて正当な理由があると認められる場合は、この限りでない。

一 期限後申告書の提出又は第二十五条(決定)の規定による決定があつた場合

二 期限後申告書の提出又は第二十五条の規定による決定があつた後に修正申告書の提出又は更正があつた場合

 

2~5 省略

 

6 期限後申告書又は第一項第二号の修正申告書の提出が、その申告に係る国税についての調査があつたことにより当該国税について更正又は決定があるべきことを予知してされたものでない場合において、その申告に係る国税についての調査通知がある前に行われたものであるときは、その申告に基づき第三十五条第二項の規定により納付すべき税額に係る第一項の無申告加算税の額は、同項及び第二項の規定にかかわらず、当該納付すべき税額に百分の五の割合を乗じて計算した金額とする

 

7 第一項の規定は、期限後申告書の提出が、その申告に係る国税についての調査があつたことにより当該国税について第二十五条の規定による決定があるべきことを予知してされたものでない場合において、期限内申告書を提出する意思があつたと認められる場合として政令で定める場合に該当してされたものであり、かつ、法定申告期限から一月を経過する日までに行われたものであるときは、適用しない。

 

国税通則法施行令

(期限内申告書を提出する意思等があつたと認められる場合)

第二十七条の二 

法第六十六条第七項(無申告加算税)に規定する期限内申告書を提出する意思があつたと認められる場合として政令で定める場合は、次の各号のいずれにも該当する場合とする。

一 法第六十六条第七項に規定する期限後申告書の提出があつた日の前日から起算して五年前の日(-省略-)までの間に、当該期限後申告書に係る国税の属する税目について、法第六十六条第一項第一号に該当することにより無申告加算税又は重加算税を課されたことがない場合であって、同条第七項の規定の適用を受けていないとき。

二 前号に規定する期限後申告書に係る納付すべき税額の全額が法定納期限(当該期限後申告書に係る納付について、法第三十四条の二第一項(口座振替納付に係る通知等)に規定する依頼を税務署長が受けていた場合又は ―省略― 場合には、当該期限後申告書を提出した日。以下この号において同じ。)までに納付されていた場合又は当該税額の全額に相当する金銭が法定納期限までに法第三十四条の三第一項(第一号に係る部分に限る。)(納付受託者に対する納付の委託)の規定による委託に基づき納付受託者に交付されていた場合若しくは当該税額の全額について法定納期限までに同項(第二号に係る部分に限る。)の規定により納付受託者が委託を受けていた場合