賃貸住宅の取得時期として契約日基準(通達ただし書)の適用が認められなかった事例(消費税、仕入税額控除)
区分:消費税、仕入税額控除
2020.12.28
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博多事案 |
西事案 |
行橋事案 |
裁決 |
福裁 H28-10-21 F0-5-182 |
大裁 H29-08-21 F0-5-208 |
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地裁 |
東京 H31-3-14 Z888-2248 |
東京 H31-3-15 Z888-2244 |
東京 H31-3-15 Z888-2284 |
高裁 |
東京 R1-12-4 Z888-2286 |
東京 R1-9-26 Z888-2289 |
東京 R1-9-26 Z888-2285 |
1.はじめに
税務において、固定資産の譲渡や取得の日がいつなのかが重要になることがある。それが納税の時期や、法人税、所得税の租税特別措置法上の特別控除の可否、また、消費税では消費税の納税義務や還付の権利の有無にしばしば影響するからである。
昭和40年の法人税法、所得税法の全面改正、及びそれを受けた昭和44年、45年の基本通達の改正までは、資産の所有権が移転する時点を譲渡の時期の原則としつつ、それと異なる時点で引渡しが行われる場合には引渡時点を譲渡の時期とすることを認めるという考え方であった。民法においては、特約の無い限り譲渡契約によって所有権が移転するため、契約(効力発生)日が譲渡の時期となる。しかし、この改正により、原則と例外が逆転し、引き渡し時期を譲渡時期の原則としつつ、譲渡契約の効力発生日(昭和55年の通達改正までは契約の効力発生の日以後引渡しの日までの間における一定の日)を譲渡時期とすることも認めることとされた。改正後しばらくの間は一定の混乱をもたらしたと想像するが、通常、引き渡しが契約効力発生日より後になるため、引き渡し基準の採用は、資産の値上がりが当然であった時代には譲渡側の納税を1年遅らせる効果があった。また、譲受側にとっても、契約日基準か引渡し基準かは減価償却開始の時期に影響を与えない。そのため、契約日基準で申告した者をあえて引き渡し基準に更正する必要がなかった。取得時期の基準は資産の保有期間を通じて納税額に影響を与える可能性があるが、納税者の選択にまかせても課税の公平を脅かすほどではなかった。
平成元年に施行された消費税法は、①事業者が納付すべき消費税額を、一定期間(課税期間)に行われた課税資産の譲渡等(課税売上)に係る消費税額の合計から同期間中に行われた課税資産の譲受等(課税仕入)に係る消費税額の合計を控除して計算する、②ただし消費税を課さない資産の譲渡等(非課税売上)に要する課税仕入れに係る消費税額は控除の対象としない、という基本理論をもとにつくられている。同時に、事業者の事務負担に配慮して、2年前の課税売上高が一定金額以下の事業者に対する納税義務の免除の制度、課税仕入れに係る消費税額のみなし計算制度や、課税仕入れが課税売上又は非課税売上いずれに要するか考慮せずに簡便に計算する方法(一括比例配分法)などが設けられている。こうした仕組みの結果、固定資産の譲渡や譲受がどの課税期間に行われたかによって、消費税の納税時期だけでなく、納税額そのものが大きく影響を受けることがしばしば起こる。
消費税法には、資産の譲渡等や課税仕入れの時期について明文の規定はない。昭和63年の導入時に、事業者の経理上の負担を考慮していわゆる帳簿方式を採用したことなどから、概ね法人税法での取扱いを踏襲している。実際、消費税法基本通達(以下「消基通」という)第9章(資産の譲渡等の時期)の多くは、法人税基本通達(以下「法基通」という)第2章第1節(平成30年改正前)の規定とそっくりである。固定資産の譲渡の時期について見ると、消基通には、
9-1-13(固定資産の譲渡の時期)
固定資産の譲渡の時期は、別に定めるものを除き、その引渡しがあった日とする。ただし、その固定資産が土地、建物その他これらに類する資産である場合において、事業者が当該固定資産の譲渡に関する契約の効力発生の日を資産の譲渡の時期としているときは、これを認める。
(注) 本文の取扱いによる場合において、固定資産の引渡しの日がいつであるかについては、9-1-2の例による。
とあるが、これは法基通2-1-14の収益の額を益金に算入する事業年度を譲渡の時期に置き換えただけである。
2.事案の概要
今回とりあげる事案は、法人の新設分割と金地金の取引を組み合わせて消費税の納税義務や一括比例配分法を用いた仕入税額控除の計算に必要な課税売上割合をコントロールしつつ、中古賃貸共同住宅(非課税売上に要する)の取得時期に消基通9-1-13ただし書きを適用して賃貸共同住宅に係る消費税について100%の還付を受けようとした納税者に対し、処分庁がただし書きの適用を否認し争いとなった3つの事案である。ほぼ同時期の同じ構造の事件で、同じ人物(税理士)が主体的にかかわっていたとされている。審判所、裁判所は、ほぼすべて国の主張を受け入れ、納税者の請求を棄却したが、国の主張をかならずしもそのままなぞらなかった部分、裁決、判決ごとの表現の違いや、審判所、地裁、高裁に進むにしたがって議論の深化も見られた。
なお、新設分割法人を利用する手法は平成22年税制改正後から平成27年の税制改正前まで(注 平成22年改正前までは新設分割という手の込んだ方法を用いずとも単に資本金1000万円以上の法人を設立すればよかった。また、平成27年税制改正によって封じられた。)に利用された手法である。
(a) 本件還付スキームのポイント
ポイント1 すでに入居者がいる賃貸マンションを一棟ごと購入する。次の手順で取得年は課税事業者となるように、3年目課税期間は免税事業者又は簡易課税事業者となるようにする。
1.少額資本金の合同会社Pを設立。設立事業年度は1か月以下とし、この期間の1年換算の課税売上高が1000万円超となるよう金地金の取得及び売却を行う。
2.P社の上記事業年度終了の日の翌日から1年以上2年以下の間にP社を分割してX社を新設する。X社の設立事業年度は1か月以下とする。分割後、適当なタイミングでP社を清算する。
3.X社の設立事業年度に賃貸マンションを取得する。同期間に金地金を取得売却し、課税売上割合をほぼ100%とする。ただし金の売却額はその期間の課税売上高(年換算)を1000万円以下となるように調整する。消費税の申告は一括比例配分方式で行い、マンション建物に係る消費税のほぼ全額の還付を受ける。
4.X社の第3事業年度は免税業者となり、消費税法第33条(課税売上割合が著しく変動した場合の調整対象固定資産に関する仕入れに係る消費税額の調整)の適用を免れる。
ポイント2 取得課税期間の住宅賃料収入をゼロとし、課税売上割合をほぼ100%とする。
賃貸マンションの取得にあたり、売買契約はXの設立事業年度中に行い、引き渡しはその翌事業年度とする。非課税売上である賃料は翌事業年度からの発生となるため、売買契約の日の属する課税期間の課税売上高は100%となる。消基通9-1-13ただし書きを適用し、売買契約があった日(売買契約の効力発生日)を課税仕入れの日とする。
原処分庁は、上記のうちポイント2を最大化するために納税者が利用した消基通9-1-13ただし書きの適用を否認し、更正処分を行った。
3事案におけるP, Xの具体的な課税期間や金地金の売買取引,賃貸住宅取得の売買契約の日、引渡しの日は表1にまとめた。以下処分庁の税務署名(博多税務署、西税務署、行橋税務署)を事案名とする。
(b) 売買契約、実行、経理、申告
売買契約書の内容
博多事案と行橋事案は、第三者間で交わされる通常の契約内容で、仲介業者が間に入っている。西事案については、原告代表者およびその関係者からの取得であり、契約書内容はよりシンプルに見える。
三事案に共通する契約条項は以下の通り。
- 売買契約からひと月以内に代金全額(契約日に手付を支払った場合には残額)を支払う。
- 代金全額の支払いと同時に引渡及び所有権移転登記申請手続きを行う。
- 固定資産税等の負担区分は、所有権移転登記の日とする。
- 本件不動産から生ずる収益については、建物等の引渡日(決済日)で区分し、その前日までは売主に、その日以後は買主に帰属する。
- 買主は、引渡しを受けた日をもって入居者との間の賃貸借契約の地位を承継する。
さらに、博多事案又は行橋事案では次の条項も含まれている。
- 所有権は、売買代金の全額が支払われたときに買主へ移転する。(博多、行橋)
- 売買契約の締結と同時に1000万円の手付を支払う。(行橋)
- 売主は、買主に受領済みの手付金の倍額を支払い、また買主は売主に支払済みの手付金を放棄して、それぞれ売買契約を解除できる。(行橋)
3事案とも売買契約書どおりに実行に移された。
(ii)原告の経理、申告
Xは、売買契約の締結日の日付で、未払金勘定を相手科目として、本件不動産を土地、建物及び建物附属設備勘定に資産計上した。
Xは、建物等の取得対価の額、仲介手数料の額、司法書士報酬の額の合計に係る消費税額を控除対象仕入れ税額に算入し、消費税の申告をした。
3.争点
1 建物の取得に係る「課税仕入れを行った日」の属する課税期間
2 更正処分は、信義則に反し違法か
(注、他に過少申告加算税の賦課にかかわる「正当な理由」の有無、司法書士手数料の課税仕入れの時期や、更正処分の理由付記についても争点となったが省略する。)
4. 争点1(建物の取得に係る「課税仕入れを行った日」の属する課税期間)
(a) 審判所での争い
審判所においては、主に消基通9-1-13(以下「本件通達」ともいう)ただし書きの解釈が争われた。
(原処分庁の主張)(博多事案、争点整理表より抜粋)
「課税仕入れを行った日」については、資産の「引渡しがあった日」とする基準(以下「引渡基準」という。)が原則であって、土地、建物等の固定資産については当該固定資産の引渡しの事実関係が外形上明らかでない場合に、例外的に資産の譲渡に関する「契約の効力発生の日」とする基準(以下「契約基準」という。)が導入されているのであり、引渡基準により「課税仕入れを行った日」が明らかである場合には、契約基準を適用することはできない。(下線筆者。以下同じ。)本件不動産について、その所有権が請求人に移転した日及び請求人がその使用 収益をできることとなった日が本件売主から請求人に本件不動産の「引渡しがあった日」であることは明らかである。したがって、本件不動産の「課税仕入れを行った日」は、原処分庁の主張する日である。
また、請求人の一連の取引を税負担の減少以外に合理的な目的を見いだし難いもので、消費税法の規定を租税回避の手段として濫用することにより、税負担を減少させるものと認められ、税負担の公平を著しく害するものとして許されず、本件のような場合にまで、通達の定めを形式的・画一的に適用することは適当でない。
(請求人の主張)
「本件通達は、一般の会計慣行を尊重しこれとの調和を図るとともに、所得税や法人税における取扱いとの統一性を保持するとの観点から、譲渡に関する契約の効力発生の日を資産の譲渡の時期としているときはこれを認めるとしたものであり、その文理からしても、「引渡しの事実関係が外形上明らかでない場合」といった条件の下、例外的にただし書の適用があると読むことはできない。」
また、処分庁の租税回避行為であるという指摘に対しては、
「収益物件を取得した際に、その個室を居住用とするか否かにより消費税額等に差が出るという不合理な差別を回避したものであること、請求人は、株主利益の最大化のために、適法な法令解釈の下に過大な税額を支払わないようにしたものであることからすると本件をいわゆる「租税回避」と同列に評価することはできない。 また、消費税法には法人税法などのように租税回避防止規定が設けられていないことからすると、消費税における租税回避は、合法的な節税である。」
と反論した。
(審判所の判断)
処分庁の主張の大半を受け入れ、請求を棄却した。
本件通達規定ただし書の趣旨は、固定資産の譲渡の時期をその引渡しのあった日とするのを原則とするものの、固定資産のうち、土地、建物等については、一般的にその引渡しの事実関係が外形上明らかでないことも多いことから、契約が有効に効力を発生し、かつ、譲渡に係る経理処理を適正に行っている場合に、契約の効力が発生した日をもって譲渡の時期とすることを特別に認めることにあると解される。
原則に基づいて「引渡しがあった日」が明らかに判断でき、ほかに合理的な理由が存在しないにもかかわらず、当事者が主観的意思のみによって形式的かつ画一的に本件通達ただし書を適用することによって租税負担の軽減を図ることとした場合には課税上弊害が生じる。租税負担の減少のみを目的とし、ほかに合理的な理由が存在しないにもかかわらず、形式的かつ画一的に本件通達ただし書を適用することにより租税負担を減少させた場合には、租税負担の公平を著しく害する特段の事情がある場合に当たり、そのような特段の事情がある場合には、本件通達ただし書を適用しないとする余地がある。(博多事案、福裁)(西事案、大裁もほぼ同じ表現。)
(b) 裁判所での争い
裁判所では、本件通達の解釈の前に、消費税法における「課税仕入れを行った日」(それと裏返しの関係にある資産の譲渡等を行った日)のそもそもの解釈が争われた。
(被告の主張)
国税通則法15条2項7号で「課税資産の譲渡等〔中略〕をした時」が消費税等を納付する義務の成立時期であるとされていることと、消費税法が資産の譲渡等により譲渡人の下で生じた付加価値が移転するのを捉え、消費税の課税対象としていることを併せ考えると、「課税資産の譲渡等」の日とは、その資産につき、その同一性を保持しつつ他人に移転することにより譲渡人の下で生じた付加価値が移転した日をいうものと解すべきである。
そして、当該資産が譲受人に引き渡されずに譲渡人の下にとどまっているのであれば、当該資産について生じた付加価値が譲渡人から譲受人に移転したとはいえないのであるから、「課税資産の譲渡等」の日とは、当該資産が譲渡人から譲受人に引き渡された日をいうものと解すべきである。(博多事案)
(その理解の上で、)本件通達ただし書は、土地、建物、構築物等については一般的にその引渡しの事実関係が外形上明らかでないことが多いところ、(中略)契約締結日という特定日を課税の時期の徴表とし、引渡しに準じた取扱いとすることにしたものである。すなわち、本件通達ただし書は、飽くまで、引渡しを認識することが困難な場合を補完する趣旨で設けられたものであり、資産の引渡しに関する事実関係が客観的に明らかな場合には、本件通達ただし書の適用は認められないというべきである。(博多事案)(西事案でも同様)
権利確定主義からの検討
「権利確定主義にいう権利の確定とは、(中略)単に権利の発生要件が満たされたというだけでは足りず、客観的にみて権利の実現が可能な状態になったことを要するというべきであり、権利の確定とは、権利の発生とは同一ではなく、権利発生後一定の事情が加わって権利実現の可能性を客観的に認識することができるようになることを意味するものと解される。したがって、権利の確定が認められるためには、権利の発生にとどまらず、当該権利の実現可能性を客観的に認識することができ、かつ、権利の実現(行使)が可能な状態となったことが必要であると解される。」
「消費税法における「資産の譲渡」についても、少なくとも、当該資産の所有権が譲渡人から譲受人に確定的に移転し、代金債権が成立することが必要と解される。
通達ただし書の「契約の効力発生の日を資産の譲渡の時期としているとき」とは、契約の効力発生の日を当該資産に係る所有権の確定的な移転の時期としている場合等、契約の効力発生の日を資産の譲渡の時期とすることが権利確定主義に反しない場合を意味するものと解すべきである。」
「法人税法においても、不動産取引について当該不動産の引渡時期が明らかな場合には、当該引渡時期が収益計上の時期となるのであり、法人税基本通達においても、本件通達と同様に、納税者の自由な選択適用を認めるものでないことは明らかである。」
原告に租税回避行為の意図があったことも触れているが、主張の中心ではなくなっている。
(原告の主張)
原告は、消費税導入の経緯を取り上げ、「消費税法が施行された直後において、仕入税額控除に関する課税仕入れを行った日については、原則として、当該事業者が法人税又は所得税の所得金額の計算において計上することとされている費用の計上時期による旨の見解が示されていたことにも照らすと、固定資産の課税仕入れを行った日は、法人税又は所得税における帳簿との事実上の平仄を合わせ、固定資産の譲渡(譲受け)の日とすべきであり」と述べ、本件通達と同様の通達が法人税、所得税にあること、法人税、所得税では通達ただし書きの選択可能性を当然に認めているのであるから、消費税においても「固定資産の譲渡に係る引渡しのあった日又は契約の効力が発生した日のいずれかを選択して課税仕入れを行った日とすることができると解すべきである」と主張した。また、「本件通達ただし書には、引渡しの事実関係が客観的に明らかか否かで区別する旨の内容は全く示されて」いないことを強調し、「消基通は、引渡しの日について諸事情を考慮し、引渡しの日が不明な場合でも一定の結論が出せるように基準を示している」[1]から、本件通達を被告のように解すると、ただし書きを適用できる場面がないことになると主張した。
また、被告のいう権利確定主義についても、「権利が確定的に発生した場合を一義的に定めることはできず、複数の基準があり得るものであり、不動産の取引においては契約の効力が発生した日も権利が確定的に発生した場合の基準として合理的なものとして本件通達ただし書に記載されているのである。」「法人税法における課税対象となる所得の額の算出のためには、最終的に会計基準によるのではなく、法人税基本通達等によって具体的な解釈基準が定められているところの法律により定められた基準に従った益金又は損金の額への算入が根拠となる」と反論した。
さらに、不動産売買の「契約の効力が生じれば、その権利の実現の確実性が相当高いといえることから、契約の効力発生の日を収益の計上の基準とすることは、同法22条2項、4項により許容される」とも主張した。
(裁判所の判断)
博多事案地裁
ほぼ被告の主張通りの理由をもって原告の請求を棄却した。
(i) 法律解釈
「通則法15条2項7号が、課税資産の譲渡等をした時をもって消費税等を納付する義務の成立時期とするものと定めており、消費税法は、課税資産の譲渡等に係る消費税の課税標準額としての「対価の額」につき、「対価として収受し、又は収受すべき一切の金銭又は金銭以外の物若しくは権利その他経済的な利益の額」と定めている。同法は、課税資産の譲渡等の時期について、納税者の恣意を許さず、課税の公平を期すという観点から、対価を収受する権利が確定した時点でその収受すべき対価を取得したものとして、その時点の属する課税年度の課税対象とする立場に立つもの」
「課税資産の譲渡等による対価を収受する権利が確定した時点で、課税資産の譲渡があったとみるのが相当であり、「課税仕入れを行った日」についても、課税資産の譲渡等による対価を収受する権利が確定した日をいうものと解するのが相当である。
消費税は、(中略)付加価値税の性質を有しており、消費税法が資産の譲渡等により譲渡人の下で生じた付加価値の移転する時点を捉えて消費税の課税対象としていることからすれば、当該資産について生じた付加価値[2]が譲受人に確定的に移転したといえる時点をもって、課税資産の譲渡等による対価を収受する権利が確定したものと捉えるのが相当である。(中略)対価を収受する権利が確定したというためには、権利が発生したというだけでは足りず、客観的にみて権利の実現が可能な状態になったことを要するというべきである。
固定資産の譲渡等については、引渡しという外形的事実があれば、通常その対価である権利の実現が客観的に可能な状態となり、権利が確定したということができるのであって、本件通達は、その趣旨を確認的に定めたものにすぎないものといえる。したがって、本件通達ただし書も、権利確定主義に反する取扱いを認めるものではなく、契約においてその効力発生日を当該資産の譲渡の日と定めている場合に、当該契約の効力発生日をもって権利が確定したと認められる事情があるときは、その日を「課税仕入れを行った日」とすることも同号に反しない旨を確認する趣旨のものにすぎないと解される。」
(ii) 事実認定
上記の法律解釈を基に権利が確定した日がいつであるかが検討された。
「本件売主は、平成25年12月2日に、売主としての履行義務を果たしたということができるから、本件建物に係る売買代金請求権が客観的にみて実現可能な状態となった時点、すなわち、同請求権について権利が確定した時点は、同日であると認めるのが相当である。本件売買契約の成立日の時点では売買代金請求権が抽象的に発生していたにとどまり、客観的にみて権利の実現が可能な状態になったということはできない。」
本件通達の文理を重視せよとする原告の主張に対しても「本件通達ただし書は、権利の実現が未確定である場合にまで、契約の効力発生日をもって「資産の譲渡等」の時期とすることを認めるものとは解されない。また、本件通達は、その文言に照らしても、権利の実現が未確定の場合にまでただし書が適用されるとの誤解を納税者に抱かせるものともいい難い。」と述べて退けた。
博多事案高裁
高裁は、地裁の判決を踏襲しつつ、原告の補充主張を一つ一つ検討し、これを退けた。また「資産の譲渡」の時期について、消費税と法人税・所得税で同じにすべきとする原告の主張については「控訴人が補充主張で指摘する消費税法の立法の経緯等を踏まえて考えたとしても、課税における基礎に関する事情を異にする消費税法と法人税法等との間で、「資産の譲渡」の課税上の処理を当然に同一に解すべきものとする根拠を見いだすことはできない。」とし、また原告の行った会計処理についても、「権利の確定時期に関する会計処理をする上では、取引の経済的実態からみて合理的なものとみられる収益計上の基準の中から、当該法人が特定の基準を選択し、継続してその基準によって収益を計上している場合には、同法上もその会計処理を正当なものとして是認すべきと解される一方、権利の実現が未確定であるにもかかわらずこれを収益に計上したり、既に確定した収入すべき権利を現金の回収を待って収益に計上したりするなどの会計処理は、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に適合するものとは認め難いものというべきである。」とした。
西事案地裁
西事案の地裁判決も、被告が主張する日を課税仕入れの時期と判断したが、他の判決と少し表現が異なっている。そこでは、「課税資産の譲渡等の時期とは、当該課税資産の譲渡等が現実に行われた時、すなわち、資産の譲渡においては、原則として、当該資産に係る権利(所有権)が移転した時をいうものと解するのが相当である」と、所有権の移転という概念が中心に据えられている。恐らく資産の譲渡等の譲渡という言葉が一般に所有権の移転を表す言葉であることを重視したからではないかと推測する[3]が、控訴審では所有権という言葉は全て削除され、別の言葉を用いた判断となった。また、西事案地裁は、被告の、「資産の引渡しに関する事実関係が客観的に明らかな場合には消基通9-1-13ただし書の適用は認められない」との主張を原告側の理解に立って排斥した[4]が、この部分も控訴審で全て削除された。
西事案高裁
「資産の譲渡等による対価を収受すべき権利が確定した時点で、当該資産の譲渡等があったと解するのが最も適切である。」「対価を収受すべき権利が確定したといえるか否かについて、客観的に認識可能な事情を基礎として判断することは、納税者の恣意を許さず、課税の公平を期するという観点にも合致する。『課税仕入れを行った日』とは、仕入れの相手方において、当該資産の譲渡等について、同時履行の抗弁などの法的障害がなくなり、対価を収受すべき権利が確定した日をいうものと解するのが相当である。」
「本件建物の売買契約においては、売買代金全額の支払と建物の引渡し及び所有権移転登記手続が同時履行とされ、(中略)固定資産税の負担及び収益の帰属も同日の経過をもって売主から買主に移転するものとされているのであって売買契約の締結日の時点では、売買代金支払請求権が発生したものの、売主においてこれを行使することが法律上可能な状態にはなかった」
行橋事案地裁
行橋事案地裁では、譲渡の取引に関する諸事情を考慮した上で建物の現実の支配がいつ移転したかを判断すべきこと、その時期が譲渡に係る権利又は債務が確定するに至った状態が生じた日であり資産の譲渡等の時期であるとした。
「譲渡に係る権利又は債務が確定するに至った状態が生じた日が客観的に明白な場合がある一方、例えば、諸般の事情から各契約当事者の給付等が段階的に複数回に分けてされるなど、外見上は上記の当該譲渡に係る権利又は債務が確定するに至った状態が生じた日が必ずしも明らかでない場合も生ずるが、後者のような場合には、契約上買主に所有権がいつ移転するものとされているかということだけではなく、代金の支払に関する約定の内容及び実際の支払の状況、登記関係書類や建物の鍵等の引渡しの状況、危険負担の移転時期、当該建物から生ずる果実の収受権や当該建物に係る経費の負担の売主から買主への移転時期、所有権の移転の登記の時期等の取引に関する諸事情を考慮し、当該建物の現実の支配がいつ移転したかを判断するのが相当である。」
「このような状態を欠くにもかかわらず、納税者に自由な選択権を与え、契約の締結の日を資産の譲渡の時期とすることを認めることは、許容し得ない」
そして、契約が成立したことを示すとされる手付についても「本件売買契約が締結された日に交付された金員は、いわゆる解約手付であり、本件売買契約を締結した当事者の双方に、本件売買契約の解除権が留保されていたことになる。売買契約が締結された日には、本件建物の取得に係る権利又は債務が確定するに至った状態が生じていたものとは認め難い」とした。
行橋事案高裁
高裁では、「契約の締結の日であっても、契約条項や両当事者の意思等に照らし、その実体において、その時点で当該譲渡に係る権利又は債務が確定するに至ったと認められる事案であれば、ただし書に基づいて契約の締結の日が資産の譲渡の時期と認められることになる。」と両当事者の意思という要素の重要性も指摘した。
5. 争点2 信義則違反
原告は「本件通達ただし書は、消費税法30条1項1号の解釈として、同法制定当時から本件更正処分等まで四半世紀以上もの期間、明文で納税者の選択可能性を明確に認める旨公表され続けてきたもの。原告は、このように公的見解として長期間にわたって広く周知され、信頼されてきた解釈を信頼し、これに沿って本件確定申告を行った。原告による本件建物の取得に係る課税仕入れを行った日の判断につき、上記解釈が認められないとは、本件通達の文言上、全く読み取ることができない。」「原告に消費税等の還付を受ける目的があったというが、そのような目的の有無は、信頼の有無とは全く関連性のない事情であり、考慮されるべきでない。」(行橋事案地裁)などと主張し、本件更正処分等は、信義則に反して違法なものであると訴えたが、審判所、裁判所は、昭和62年10月30日最高裁判決の判断基準を引用しながら退けた。
(福裁)「請求人が、消費税等の還付を受けるためだけの目的で、ほかに合理的な理由が存在しないにもかかわらず、あえて経理処理を行って恣意的に本件通達ただし書を適用して消費税等の多額の還付を求めたことは、租税負担の公平を著しく害する特段の事情がある場合に当たるというべきであるから、本件において、本件通達ただし書の適用は認められないのであり、上記のような消費税等の還付を受けるためだけの目的で恣意的に本件通達ただし書を適用したことについて、信義則の法理が適用されないことは明らかである。」
(大裁)「請求人が本件通達規定ただし書の規定する契約基準を適用したことは、租税負担の公平を著しく害すると認められるから、本件において、納税者間の平等、公平という要請を犠牲にしてもなお課税処分に係る課税を免れさせて納税者の信頼を保護しなければ正義に反するというような特別な事情が存するということはできない。」
博多事案地裁判決は、「本件通達ただし書は、権利の実現が未確定である場合にまで、契約の効力発生日をもって「資産の譲渡等」の時期とすることを認めるものとは解されない。また、本件通達は、その文言に照らしても、権利の実現が未確定の場合にまでただし書が適用されるとの誤解を納税者に抱かせるものともいい難い。そうすると、原告の主張は、前提を欠くものといわざるを得ない。」と租税の公平性をもちだすまでもなく原告の主張を退けた(西事案地裁も同様)
行橋事案地裁判決は、確定申告の際に税理士が代理人として関与していることを挙げ、「本件建物の取得又はいずれも、権利確定主義に基づいて認定されるべきものであるところ、そのことは、税理士であれば、誰しもが承知しているはずの見解であり (中略)。そうすると、原告は、権利確定主義に基づいてすべき「課税仕入れを行つた日」の認定を誤って、いまだ収受すべき金銭又は金銭以外の物若しくは権利その他経済的な利益が確定していない日を「課税仕入れを行つた日」とすることを前提として本件確定申告をした結果、本件更正処分等を受けたにすぎず、原告に生じたとされる不利益は、税務官庁が原告に対して表示した公的見解を原告が信頼した結果に起因するものではなく、自らがした事実認定の誤りに起因するものであるということができる」と納税者の落ち度をより重視する指摘となった。
行橋事案高裁では、通達の表現ぶりについて、「碓かに、本件通達の表現ぶりや被控訴人によるその説明ぶりについては、必ずしも明解なものとはいい難く、今後の改善が期待されるところではあるが」としながらも「消費税法や制度の趣旨を総合的に考慮すれば、本件において『課税仕入れを行った日』につき控訴人が主張するような解釈が採り得ないことは明らかというべきであるから、控訴人に生じた不利益は、結局、本件通達の解釈や消費税法の解釈を自ら誤ったことに基づく事実認定の誤りに起因するものであるというほかない。また、本件更正処分等が公平性を有しないとする点については、これを認めるに足りる具体的な根拠が示されていないし、いずれにしても、個別事案の特性に応じて、異なる対応や判断がされることは否定し得ないし、そのこと自体が不当ともいえない。」とした。
6. 検討
(i)消基通9-1-13ただし書きについて
1年半ほど前、ある研究会で消費税法に詳しい実務家の方がこの問題を取り上げられ、消基通9-1-13のただし書きについて、これまで、当然に選択適用を認めているものと考えていた旨発言されていた。通達の書きぶりからは、引渡の時期が明らかな場合にはただし書きを適用する余地がないと読み取ることは困難である。消費税法基本通達逐条解説には、「固定資産のうち、土地、建物、構築物等については、一般的にその引渡しの事実関係が外形上明らかでないことが多いので」契約日基準を認めることした、と国が裁判で述べた考え方に沿った記述がみられるが、引渡の時期が明らかな場合にはただし書きを適用する余地がないとまではされていない。実際、上記事案と同様の売買契約に従って決算日前に売買契約を結び翌事業年度初めに引渡を行うような取引は五万と行われているわけで、その決算日を境に課税事業者が免税事業者になったりするなどいずれの事業年度で資産の譲渡等が行われたのかの判断が、通算納税額に大きく影響する場合においても、明らかな租税回避的行為が伴っていなければ、引渡しの日が明らかだからという理由で、いわゆる契約日基準が否認された例はなかったのではないか。消費税導入前後において契約日基準を否認したかのような事例はあるが[5]、そこでの論理は、契約内容または契約締結後の処理状況から「売買において契約日をもつて本件土地建物の譲渡の時とする合意があつたと認めることはできない」と、ただし書きの適用条件である「契約効力発生の日を資産の譲渡の時期としている」こと自体を否認するものであった。
ただ、通達ただし書きが、いかなる場合でも納税者による契約基準の選択を認めているとまではいえない。というのは、所得税における類似の通達、所基通36-12(山林所得又は譲渡所得の総収入金額の収入すべき時期)では、ただし書きのなかにはっきりと「納税者の選択により」「申告があったときは、これを認める」と書かれているのであるが、消基通9-1-13や法基通2-1-14ではシンプルに「契約効力発生の日を資産の譲渡等の時期としているときはこれを認める」「契約の効力発生の日において収益計上を行っているときはこれを認める」とされているだけだからである。
筆者は、消基通9-1-13ただし書きについて、基本的に納税者の選択適用を認め、課税上著しい弊害がある場合にのみその適用を否認できるとすることが適当であると考える。即ち審判所で課税庁が主張したように「消費税法の規定を租税回避の手段として濫用することにより、消費税等の負担を減少させ、税負担の公平を著しく害する場合にまで、通達の定めを形式的・画一的に適用することは適当でない」との理解で運用を行うべきであると考える。
ii)消費税法における資産の譲渡等の時期について
博多事案高裁判決が指摘したように、消費税法と法人税法等との間で「資産の譲渡」の課税上の処理を当然に同一に解すべきものとは思われないが、両法とも権利確定主義の考え方に立っているため、結果として原則一致することとなる。また、事業者の計算の便宜のために設けられた時期に関する通達も基本的に両法でその時期を一致させるように作られている。節税や資金繰り目的で、資産の譲渡等(消費税)の時期と益金損金参入時期や資産の取得時期(法人税法)が異なった申告をするためには、相当の理由が必要であろう。
一方、消費税法と所得税法との間では、一部に資産の譲渡等の時期と収入すべき時期に違いがみられる。両法の通達を見ると、譲渡所得における土地家屋等の譲渡の時期、そして不動産の貸付に係る賃料の収入すべき時期の扱いが異なっている(前者についてはただし書きの部分の違い)。この違いは、所得税法における「収入すべき金額」と法人税法における「益金の額に算入すべき金額」の違いによるものと考えられる。
個人事業者は、消費税の課税売上高を所得税の収入金額をもとに計算していることが多いと思われるが、その結果、消費税の通算納税額に違いが生じるような場合には、税務調査時に修正を迫られる可能性がある。
消費税法基本通達には、課税仕入れの時期について、会計慣行や納税者の事務負担を考慮して設けられた独自の緩和通達がいくつか見られる。建設業者の未成工事支出金や自ら固定資産を建設した場合の建設仮勘定については、完成時期に課税仕入れを行ったものとして消費税の計算ができる。(消基通11-3-5ただし書き、11-3-6ただし書き)とされている。これらの扱いは、経理実務を考慮したものであり、消費税法の解釈から導き出されるものではない。また、通達の形をとってはいないが、所有権移転外リース取引が法人税法において譲渡とされ、資産計上の後リース期間定額法による減価償却をしていくことが原則となったあと、消費税法においてもリース資産の引き渡し時に資産の譲渡等があったものとした扱いとなったが、対応が困難な中小企業が多く存在するとの税理士会からの訴えによって従来通りリース料を支払った日の属する課税仕入れとすることが事実上認められている。課税仕入れの時期を一定の制約のもと納税者の選択にゆだねるこれらの扱いは、納付すべき通算消費税額に影響を及ぼす場合がある。免税事業者の期間に建設が始まった未成工事や固定資産に係る課税仕入れに対してただし書きを適用することで、それらが、原則課税の期間に引渡し又は完成した場合にその引渡又は完成した期間で仕入税額控除をすることができることになる。前者については、消法36条(納税義務の免除を受けないこととなつた場合等の棚卸資産に係る消費税額の調整)によって同じ結果を生ずることとなるが、後者についてはただし書きの適用で通算納付税額が少なくなる。課税資産の譲渡等については、免税事業者のそれには消費税等に相当する額を含んでいない(消法28条の解釈)が、課税仕入れについてはそうではない(消法36条)。そのため、課税仕入れの時期をどの時点とするかが通算納付税額に影響を与える場合が生じるように見える。
(iii)金地金の売買を利用した賃貸住宅の取得に係る消費税の還付、及び住宅の貸付が非課税売上とされていることについて
金地金の売買を利用して課税売上割合をコントロールすることによって、賃貸住宅の取得に係る消費税の還付を受け、かつ第3事業年度の課税期間での通算課税売上の計算による取り戻しを避ける(又はできるだけ小さくする)ということが一部で行われているという話は数年前に耳にした。そうした手法は、課税の公平上無視できない問題があり、近いうちに何らかの手当が行われるとは予想していた。
国税庁は、平成31年度税制改正意見において「課税売上割合の見直し…」として「…課税売上割合に含めると事業者の事業実態から乖離することとなる場合には、当該資産の譲渡に係る売上高を課税売上割合の計算から除外する」ことを要望していた。TAINSが情報公開請求により入手したこの文書の多くは黒塗りとなっていたが、この部分は一見して金地金取引のことであるとわかった。この意見を見た時には、「事業者の事業実態から乖離」していることをどう定義するかの問題があるため、この方向での実際の改正は難しいと感じていたのだが、令和2年の税制改正において「住宅の貸付の用に供しないことが明らかな建物以外の建物であって高額特定資産に該当するもの」の課税仕入れについては仕入税額控除制度の適用を認めないという形で解決が図られた。この改正は、同時に中古の賃貸住宅を仕入れて売却するというビジネスモデルを採用していた業者が被っていた不合理な扱いをも解決するものであり、うまい解を見つけたなという印象を持った。
現行法令の適切な運用や法令改正によって、トリッキーな手段を用いた租税回避を封じていくことは課税の公平のために必要なことである。しかし、賃貸住宅の取得や維持管理に必要な経費に係る消費税の控除が基本的に認められていないことに納得がいかないと感じる事業者は多い。本件の原告も、博多事案控訴審において、「そもそも控訴人は、(中略)「住宅の貸付け」が消費税法制定後の平成3年改正によって非課税取引として追加される以前は、本件建物等の購入についても課税仕入れとしてその支払った消費税額につき仕入税額控除を受けていたのであり、この改正による非課税は、仕入税額控除の鎖が断ち切られ、税の累積を招き、歪みを生じさせる」と付加価値税における非課税の問題点[6]を挙げ、「還付を受ける結果となったとしても、それは、歪みが是正され付加価値税の本来の姿を取り戻したというにすぎず、何ら非難されるべきことではなく、むしろ、付加価値税の趣旨に適う結果とすらいえる。」との主張を行っている。
消費税及び地方消費税の税率が平成26年4月前の5%から5年半の間に10%まで引き上げられた。この間、事業者が消費税の転嫁がスムーズに行えるように政府によるキャンペーンが行われたが、住宅貸付業者は取り残された。消費税率の引き上げによって、修繕費、委託管理費その他の経費の税込み金額は確実にアップしたにも関わらず、それを賃料に反映させることは難しい。入居者から見れば、住宅の貸付は非課税なのだから、消費税率が引き上げを理由にした家賃の値上げに理解を示すことは困難だからである。
日本においては住宅家賃が非課税とされているが、付加価値税を導入している海外においてはどのようになっているのであろうか。これらを調べ比較検討した研究はすでになされていると想像するが、その文献を入手して読んでみたいものである。
[1] 消基通9-1-13が準用する消基通9-1-2により、引渡しの日が常に明らかにできるから、課税庁のいう引渡の日が明らかでない場合にのみただし書きが適用できないという主張は矛盾しているという意味。
[2] 原告が控訴審において「付加価値という言葉は消費税法にはない」と批判したこともあり、高裁判断ではこの言葉は使われていない。
[3]名古屋高裁平成9年4月9日判決(TAINS Z223-7899) (所有権の移転の時期という言葉が使われている)を参考にした可能性もある。
[4] 前掲注1参照
[6] 付加価値税の父モーリス・ローレが非課税について「付加価値税の癌」と評したことを引用
スキーム図
表1 3事案の経過等
|
博多事案 |
西事案 |
行橋事案 |
処分行政庁 |
博多税務署 |
西税務署 |
行橋税務署 |
P社資本金 |
150,000 合同会社 |
300,000 合同会社 |
|
P社課税期間 |
平成24年6月1日~6月30日 |
(平成23年9月×日~9月30日) |
平成23年5月11日~5月31日 |
上記課税期間中の金の売買 |
6/1 857,400円購入 6/13 857,400円で全量売却 |
9/12 980,550円で購入 9/26 全量売却 |
5/23 金地金300gを購入 5/30 1,242,990円 全量売却 |
新設分割 |
平成25年11月5日 |
(平成25年6月10日と推察) |
(平成25年4月24日と推察) |
X社資本金 |
1,000,000 株式会社 |
1,000,000 株式会社 |
|
本件課税期間 |
平成25年11月5日~11月30日 |
平成25年6月10日~6月30日 |
平成25年4月24日~4月30日 |
上記課税期間中の金の売買 |
11/14 44,580円で購入 11/20 42,750円で全量売却 |
6/17 5g を23,475円で購入 6/26 20,915円で全量売却 |
4/25 5g 購入 4/26 全量売却 |
売買契約の日 |
平成25年11月15日 |
平成25年6月28日 |
平成25年4月25日 |
売買代金支払い等 |
平成25年12月2日 |
平成25年7月31日 |
平成25年5月30日 |
その他 |
平成25年12月6日に管理会社との間で賃貸借及び管理契約(12/2~) |
|
手付1000万円 |
不動産購入対価(土地+建物) |
970,000,000 |
72,800,000+71,085,000 |
700,000,000 |
建物・構築物購入対価(税込) |
798,140,856(司法書士報酬、仲介手数料を含む) |
71,085,000 (71,181,510) 差額は固定資産税 |
613,622,313(司法書士報酬を含む) |
否認された消費税等 |
30,423,523+7,605,880 |
2,738,526+684,631 |
24,155,116+6,038,779 |
更正処分 |
平成27年5月29日 平成29年6月27日(一部取消) |
平成28年3月28日 |
平成27年5月26日 平成29年6月27日変更 |
審査請求 |
平成27年10月27日 |
平成28年9月13日 |
TAINS未収録 |
裁決 |
平成28年10月21日 |
平成29年8月21日 |
|
訴え |
平成29年 4月 1日 |
平成29年4月 1日 |
|
地裁判決 裁判長 |
平成31年3月14日 森英明 |
平成31年3月15日 古田孝夫 |
平成31年3月15日 朝倉佳秀 |
高裁判決 裁判長 |
令和元年12月4日 八木一洋 |
令和元年9月26日 定塚誠 |
令和元年9月26日 菅野雅之 |